「生い立ちをどう伝えるべきか」養親を悩ませる前例のない出自と世間の目 「こうのとりのゆりかご」に預けられていた子どもへの〝真実告知〟という課題
親が育てられない子どもを匿名でも受け入れる熊本市・慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)は、2007年の開設から16年が過ぎた。2023年3月末までに預けられたのは170人。子どもたちはその後、どのように過ごしているのだろうか。そんな疑問に動かされて取材を進めると、子どもたちを育てる養親たちは、生い立ちを伝える「真実告知」を巡って葛藤していた。「養子である」だけでなく、「こうのとりのゆりかごに預けられていた」という事実を子どもにどう伝えるか。生活困窮や未婚など、さまざまな事情で預けられた子どもたちに向けられる世間の目も悩みの一つで、養親が頼れる相談体制はまだ不十分だ。開設当初に0歳で預けられた子どもは、もうすぐ成人になる。「出自を知る権利」への対応を巡って、自治体や病院も動き出した。(共同通信=石原聡美) 「妊娠、誰にも知られたくない」と10代女性 危険な孤立出産を防ぐには
▽ゆりかごに預けられていた息子、告知を巡りぶつかった夫婦 こうのとりのゆりかごは、慈恵病院の一角にある。道路に面した門から、高い生け垣に囲まれた通路を歩くと、たどり着く。扉を開けると「お父さんへ お母さんへ」と書かれた手紙があり、手紙を取ると赤ちゃんをベッドに預けられる仕組みだ。 九州地方に住む誠一さん、桜さん夫婦=いずれも仮名=は、不妊治療をしたが、子どもを授からなかった。偶然見た特別養子縁組がテーマのテレビドラマをきっかけに、里親に登録。約1年後、熊本市の児童相談所から連絡があり、こうのとりのゆりかごに預けられ、当時は乳児院にいた智君(仮名)と出会った。 1年間、乳児院を訪ねて面会を繰り返し、徐々に一緒に外出したり、お泊まりをしたりするマッチング期間を経て、2人は智君を育てることになり、正式に特別養子縁組した。 智君に養子であることを伝えるか、伝えないか。一緒に暮らし始めると、生い立ちを伝える「真実告知」を巡って夫婦の意見は割れ、何度もぶつかった。誠一さんは「肯定的に伝えて、家族になってよかったと思ってほしい」と告知に前向きだった。一方、桜さんは「社会人になるぐらい、成長してから伝えた方が良い」と考え、反対した。智君が思春期の頃には「部活や恋愛のような『普通のこと』で悩んでほしい」。血がつながっていないことで、悩みが一つ増えてほしくなかった。 ▽とっさによぎった「子どもにうそをついてはいけない」、絵本を手作りして説明