「生い立ちをどう伝えるべきか」養親を悩ませる前例のない出自と世間の目 「こうのとりのゆりかご」に預けられていた子どもへの〝真実告知〟という課題
▽「伝えないことは子どもの選択肢を奪っている」 では、預けられた当事者はどう考えているのだろうか。こうのとりのゆりかごの開設初日、3歳で預けられた大学生宮津航一さん(20)は「出自が分からないことも含めて、その人の『出自』。伝えないことは、子どもの選択肢を奪っている。分からないこと含め、伝えて」と訴える。 航一さんの生みの親は当初、全く分からなかった。そのことで、全く寂しさを感じなかったというわけではない。小学校低学年の時、生い立ちを振り返る授業があった。生まれた直後、2歳、3歳、今のそれぞれの写真とエピソードを班で発表しなければならなかった。だが、3歳で預けられた自分には「写真がない」。一つは絵を描いて、もう一つは兄弟が小さい時の写真を使った。当時の気持ちについて、航一さんは「自分だけない。寂しさというか、そういうのがあった」と振り返る。 後に生後数カ月のとき、実母は交通事故で亡くなっていたと判明した。養親のみどりさん(65)は航一さんに、出自が分からなかった時も、実母が判明したときも、ありのままを伝え「(預けられて)命を助けてもらって良かったね」と語りかけてきた。預けた人たちはきっと「子どもに幸せになってほしいと願っていたはずだ」とおもんぱかる。
航一さんは「生みの親が本当はどう思っていたか分からないが、伝え方次第で、出自を肯定的に捉えられる」と話す。 ▽出自を知る権利の保障へ、フランスでは誠実でない対応は許されず 日本も批准する「子どもの権利条約」は、できる限り父母を知る権利として、「出自を知る権利」を明記するが、国内で法整備されていない。こうのとりのゆりかご開設当初に1歳未満で預けられた子は、あと数年で成人年齢の18歳になる。対応は急務だ。 熊本市と慈恵病院は2023年5月、弁護士や産科病院、児童養護施設関係者らでつくる「緊急下にある妊婦から生まれた子どもの出自を知る権利に関する検討会」を設置した。 委員の一人であるフランス家庭子ども福祉専門家の安発明子氏は「フランスでは真実告知という言葉がない」と話す。「赤ちゃんであったとしても1人の人間で、誠実でない対応をするのは許されない。赤ちゃんの時から納得いく対応をする。どう声を掛けるか迷ったら、養子縁組機関が支える」という。