「生い立ちをどう伝えるべきか」養親を悩ませる前例のない出自と世間の目 「こうのとりのゆりかご」に預けられていた子どもへの〝真実告知〟という課題
「養子である」ことを伝えるのに養親を悩ませるものとして、誠一さんは「世間の目」を挙げた。ゆりかごに預けられて「かわいそうな子」だと思ってほしくない。「どういう形で養親と伝えるか。しかもうちは『ゆりかご』。世間からバイアスのかかった見方があるのでは」。ゆりかごの話題はデリケートで、他の養親らがどうしているのかは見えにくい。成長するにつれ、智君自身の出自の受け止め方も変わっていく可能性がある。誠一さんは「似た境遇の人や、他のケースの状況をもっと知りたい」と訴える。 ▽「ゆりかごに預けられていた」と告知したのは18% 熊本市児童相談所は2022年夏、ゆりかごに預けられた子どもと特別養子縁組して育てている養親や里親・児童養護施設に対し、出自の告知に関する調査を実施。2023年4月、結果を公表した。回答した養親らのうち、「ゆりかごに預けられていた」と告知していたのは18%だった。回答数は非公表だが、回収率は94・4%だった。
慈恵病院の蓮田健院長は「真実告知は早い方が良い、というのは斡旋団体や研究者の中では、ほぼ常識だ」と説明する。それだけに調査結果は「衝撃的な数字。育てている大人の負担が重いと感じた」という。「ただ、『匿名で預けられた』という出自についても、告知は早い方が良いのか。未知の世界だ」。告知しなかった82%のうち、計約7割は、告知について「検討している」「考えていきたい」と前向きだった。 調査結果では、こうのとりのゆりかごに預けられた子どもと特別養子縁組した養親のみに対する質問で、「養子であることを伝えた」と回答したのは67%だった。養子であることは伝えられても、「ゆりかごに預けられていた」と伝えるのは難しいという、養育者の苦悩の一端が浮かび上がった形だ。 熊本市児童相談所の戸沢角充所長は「ゆりかごに対する社会の理解や受け止めがさまざまな中で、養親たちは不安を抱えている。子どもの成長の過程で(出自の)受け止めが変わった時に、継続的に相談できる体制が必要だ」と話す。