トランプ氏が共和党内で「敵なし」になったきっかけは、自身への「刑事訴追」だった 被告人の立場を最大限に有効活用 一方で「ボディーブロー」になるかも…【混沌の超大国 2024年アメリカ大統領選(4)】
トランプ氏の議会襲撃への関与と私邸への機密文書持ち出しの捜査では、司法省はバイデン政権から独立させるためにスミス特別検察官を任命した。ただトランプ氏は「トランプ嫌いの検察官」「精神錯乱状態にある」などとスミス氏を個人攻撃し、訴追の正当性を否定している。 トランプ氏が起訴に先立ち、2022年11月にいち早く大統領選への出馬を表明したのも巧妙だった。その後の訴追や民事訴訟が、民主党による共和党候補への「選挙活動の妨害」だとの構図を支持者に訴えることを可能にした。 一部の世論調査では、最後に起訴されたジョージア州の選挙介入事件には「政治的な動機があると思う」との回答が49%で、「そう思わない」の32%を上回った。 トランプ氏が共和党候補となる可能性が高まる中で「奥の手」として注目されるのが、大統領に返り咲いた後に自身を恩赦するシナリオだ。前例はなく、各州の事件に恩赦の権限はないとされるが、現職大統領を州法違反に問えるのかどうかなど、専門家は「未知の領域」だと漏らしている。
▽ボディーブロー 一方で、トランプ氏の戦略に影を落とすのは民事訴訟だ。政治的迫害の「被害者」だとの主張に変わりはなく、自ら頻繁に出廷して注目を集める。証言台に立つと「この法廷で起きていることが詐欺だ」と持論を展開した。 判事は「政治集会の場ではない」と証言を制止し、代理人弁護士に「被告を制御できないのか」といら立つ場面も。ルールを守っていないのはトランプ氏だったが、共和党支持者には自由な発言を許さない強権的な判事に映ったかもしれない。 しかし、政治的なアピールや支持固めには成功しても、判事らの心証を損なった結果、民事では敗訴が続いている。 今年1月に女性作家への性的暴行に関わる名誉毀損が認定され、懲罰的賠償を含めた総額8330万ドル(約124億円)の支払いを命じられた。2月には、一族企業「トランプ・オーガニゼーション」の資産価値を偽り不正な利益を得たとして得たとして、3億5480万ドルの支払いを命じられた。