トランプ氏が共和党内で「敵なし」になったきっかけは、自身への「刑事訴追」だった 被告人の立場を最大限に有効活用 一方で「ボディーブロー」になるかも…【混沌の超大国 2024年アメリカ大統領選(4)】
トランプ前米大統領が11月の大統領選での共和党候補指名争いで独走している。四つの刑事事件で起訴されながら、なぜこれほどの人気を保てるのか―。その力の源泉は皮肉にも「被告人」の立場を巧みに利用した戦略にある。自身を迫害しようとの政治的思惑が背景にあると批判して「魔女狩りだ!」と支持者をあおり、民事裁判では判事と衝突。メディアの注目を、広告代も支払わずにさらってみせた。さらに、トランプ氏が大統領に再選された場合の「奥の手」も取り沙汰される。ただ、この手法には落とし穴もあるという。後になって「ボディーブロー」のように響いてくるかもしれない。(共同通信ニューヨーク支局 稲葉俊之) 【写真】トランプ氏「私欲を優先」 元側近、当選なら日本含む同盟国軽視
▽支持が急回復 2023年4月4日、ニューヨーク・マンハッタンにある裁判所前の一角に数百人の報道陣がひしめき合っていた。欧米メディアだけでなく、中国やロシアの記者の顔も。日本国内の事件事故ではこれほど数多く、多様な記者やカメラマンが集まる現場を見たことはなかった。 頭上ではけたたましいプロペラ音が聞こえる。数日前に米大統領経験者として初めて起訴され、罪状認否で出廷するトランプ氏の車列を報道機関のヘリコプターが追っていた。本人が地裁前に姿を現すと無数のシャッター音が響いた。 政権を去ってから2年余りが経過し、岩盤支持層以外の有権者にとっては「過去の人」となりつつあった前大統領。テレビ広告に資金を投入する必要もなく、当日は生中継で一挙手一投足が詳報され、表舞台への復帰に刑事訴追が大きな役割を果たした。 「抗議しろ。国家を取り戻せ」。トランプ氏は起訴前の3月中旬に交流サイト(SNS)で「逮捕される」と予告し、東部ニューヨーク州検察による不当な捜査だと反発。容疑が不明な段階から一貫して犯罪への関与を否定していた。
政治サイトのファイブサーティーエイトによると、起訴直前からトランプ氏の共和党内の支持率は急速に上昇。2位のデサンティス・フロリダ州知事との差は10ポイント前後から30ポイント以上に広がった。党支持者がトランプ氏の主張を受け入れたのは明らかだった。 ▽検事は民主党 確かに四つの刑事事件には公平性に疑念を抱かせる点がある。 トランプ氏は(1)3月30日に不倫もみ消し問題でのニューヨーク州法違反(2)6月8日に私邸への機密文書持ち出しでの連邦法違反(3)8月1日に議会襲撃事件に関連する連邦法違反(4)8月14日に大統領選介入での南部ジョージア州法違反―の罪で起訴された。 ニューヨーク州とジョージア州の事件で捜査を率いたのは直接選挙で選ばれる地方検事で、どちらも民主党候補として当選した。最終的に市民で構成する大陪審が起訴の可否を判断して客観性を担保する仕組みだが、捜査が党派対立と無関係とは断言しづらい。