小林幸子「歌手人生60年〈ニコ動に出るようになったら終わりだ〉と言われても、演歌もボカロ曲も、自分の歌で皆に楽しんでもらえれば本望」
◆ベテランのプライドは手放して ラッキーだったのは、当時若者に人気だった「ニコニコ動画」(ネットの動画共有サービス。通称・ニコ動)に出合えたことです。生放送の出演オファーをいただいたときは、「ニコ動って、何?」と正直チンプンカンプン。 でも、スタッフに強く勧められて出演をお引き受けしたんです。そうしたら、私が登場した途端、「わっ、本物の小林幸子じゃん!」など、視聴者のナマの声が文字で画面に流れ始めたので、もうビックリ。でも、それが最高に面白かったのです。 私が若い人たちの間で、『紅白』での衣装がゲームのラストに立ちはだかるボスに似ていることから「ラスボス」と呼ばれていることも、初めて知りました(笑)。 このご縁で参加したコミックマーケットでは、コスプレをしている子たちに「可愛いわね」と声をかけたら、「キャー! コスプレの女王に褒められた」なんて言うので、私はそういう受け入れ方をされていたのかと驚いたり。とにかくすべてが新鮮な出来事でした。
それからすっかり面白くなって、難易度の高いボカロ曲(ボーカロイドというソフトウェアを使って作曲し、歌声も機械で作る楽曲)を、生身の人間である私が歌いこなせるのか挑戦する動画を投稿。 今回のコンサートでも、「千本桜」などボカロの名曲を数曲歌いました。会場には演歌を聴きに来てくださった年配の方もいれば、ボカロ曲を楽しみに来てくださった若い方もいて、嬉しかったですね。 当初、「小林幸子もニコ動に出るようになったら終わりだ」などと言われていたようです。でも、そういうことを言ってはダメですね。時代は刻々と進んでいるのですから。若者に迎合する必要はありませんが、やってもみないで拒絶するなんてもったいないと思います。私は、自分の歌でみなさまに楽しんでいただけたら本望なのです。 ベテランだなんていうプライドは手放し、新たなことに挑んでダメだったらやめればいい、というくらいの軽やかな気持ちで歩んできました。結果、歌手人生の中で今が一番楽しいです。 デビューしたころ、古賀先生が「いいかチビ、歌でお腹をいっぱいにすることはできないけれど、人の心を温かくすることはできるんだよ」と話してくださったことが忘れられません。先生の言葉を胸に、これからも歌い続けていきたいと思っています。 (構成=丸山あかね)
小林幸子
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