映画『ナミビアの砂漠』山中瑶子監督にロングインタビュー
ワガママで暴力的で、口を開けば出まかせばかり。傍若無人な主人公カナを中心として、とびきりエッジィに、けれども細やかに、現代日本をサバイブする若者たちの肖像を切り取った『ナミビアの砂漠』(9月6日公開)。本作は山中瑶子監督やクルーの、“面白いものをつくる”というシンプルな情熱であふれている。その背景にある問題意識や、込めた思いについて、27歳の俊英がいま紡ぐ言葉の記録。 【記事中の画像をすべて見る】
──5月のカンヌ国際映画祭では、国際映画批評家連盟賞の受賞おめでとうございます。一度カンヌを後にして、パリ旅行中に呼び戻されたんだとか? そうですね。カンヌの喧騒から抜けて、パリに着いたばかりのときに電話をもらいました。「なんかの賞を取ったようです」と。パルム・ドールなどオフィシャル部門も含め、授賞式で発表されるまでなんの賞をもらうかは教えてもらえないようで。だからつい私も内心“わざわざ戻るほどの賞なのかな?”って(笑)。どういう賞の審査対象に入っていたのかもよくわかっていなくて。 ──本作が出品された「監督週間」はカンヌ国際映画祭と並行して開かれる独立部門で、公式セレクションほど競争的でなく、賞に重きが置かれていないことが特徴ですものね。 そうなんです。アンチコンペを謳っていたはずですし、だからなんにも思い当たることがなくて。そうしたら、想像していたより全然いい賞だったという(笑)。 ──その気にかけなさがむしろ頼もしいです(笑)。まず伝えたいのが、主人公カナを演じた河合優実さんにインタビューした際、「一般的に主人公は成長・向上していくことが多いけど、カナについては、あえてそのステージを降りちゃっても面白いかなと。人としてよくなりたいとか、そういうことはあんまり考えていない現在地の映画」と話していて。 河合さんが脚本を読んでそう感じたというのは撮影に入る前に私も聞きました。自分もそのつもりで書いていたので、受け取ってもらえてよかったなと思います。同じものを捉えているという信頼感を抱きました。 ──21歳のカナは東京在住。退屈しのぎに恋人を乗り換えたりしながら、漫然と毎日を送っています。物語を通して成長していくという、主人公像の定型へのアンチテーゼともいえるキャラクターを生み出した背景について、どんな思いがあったか教えてください。 人って人生のうちに、成長とかせず、停滞している時間のほうが長いんじゃないかなって。「日々成長」とか言われると、“それってどういうこと?ただ毎日が経過しているだけでもよくない?”なんて思っちゃうんですけど。停滞はよくないこととされていますよね。特に今は、「何かやらねば」「成し遂げなければ」みたいな風潮もあって。これはきっと、たとえば江戸時代にはなかった感覚で、現代的な速度感とか、資本主義のせいなのかなと思うんですけど。正常じゃないのは社会や世界のほうで、カナみたいに混沌として怠惰でいることは別におかしくない。そういう気持ちがあります。