臓器横断的ながん薬物療法で“治療難民”を防ぐ―日本臨床腫瘍学会の取り組み
◇臓器別の治療からがん種横断的な治療へ
日本では、さまざまながん種の知識や経験を横断的に身につけた薬物療法の専門医がまだ不足しています。現在では遺伝子パネル検査*や免疫チェックポイント阻害薬**などの画期的な検査・治療方法ががん種を超えて広まってきています。幅広いがん種の治療体系の理解が役に立ちます。 従来は「肺がんならこの治療法」「胃がんならこの治療法」と臓器別に治療を検討していましたが、これからは遺伝子変異別に治療を検討することも必要な時代になってきます。臓器横断的な考え方はますます重要になるでしょう。 たとえば免疫チェックポイント阻害薬は、メラノーマや腎細胞がんに留まらず今や肺がんや消化器がんなど多くのがん種で使用されていますが、副作用はがん種を問わず共通です。免疫チェックポイント阻害薬のマネジメント能力を身につけていれば幅広いがんに対応できるわけです。がんの薬物療法では各臓器がんの専門性を持つ前に、臓器横断的な考え方を習得し、そのうえで肺がん、胃がんなど特定領域の専門性を高めていくことが重要です。 *遺伝子パネル検査:治療選択に役立つ情報の取得を目的として、がん細胞の遺伝子変異を調べる検査。 **免疫チェックポイント阻害薬:がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れる仕組みを解除し、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする薬剤。
◇世代交代による変化にも期待
日本臨床腫瘍学会が発足したとき、私はちょうどアメリカ留学を終えて日本に帰国したタイミングでした。アメリカのがん診療を見て臓器横断的な治療の必要性は痛感していたものの制度を大きく変えるのは難しく、なかなか思うようには進んできませんでした。少しずつ変化してきてはいますが、今も専門的なトレーニングを受けた人材の不足が課題になっています。 当学会の学術集会でも、臓器横断的なセッションを大事にしたいと考えています。私よりも10歳、20歳若い世代では、臓器の専門性を持たずにさまざまながん種の治療トレーニングを積んだ腫瘍内科医が育ってきています。その世代の医師が中心になれば変化が加速するのではないかと期待しています。 免疫チェックポイント阻害薬のような新しい薬剤の開発など、技術の進歩の面から考えても臓器横断的な考え方は今後ますます必要になります。薬剤の作用機序や副作用も複雑化しており、従来のように内視鏡検査や手術を行いながら薬物療法を実施できるレベルではなくなってきています。 専門的なトレーニングを積んだ医師によるがん薬物療法は、患者さんの利益にもつながります。チーム医療の中で腫瘍内科医は臓器横断的な視野を持って薬物療法にあたることが重要です。