井岡一翔と堀口恭司…勝利をつかむ王者に共通する「ピンチを進化に変える力」
本来であれば試合勘の鈍りなどのブランクの影響が出てもおかしくなかった。なぜ井岡は、リングに立てないピンチを進化の時間に変えることができたのか? ストレートに質問をぶつけた。 「自分とどれだけ向き合って感性を高められるかじゃないですか。相手がどうのより実戦の中でボクシングの深みというか、理解を高めていけば、たとえ試合をしなくても成長できると思う」 そして、こう続けた。 「僕のボクシング、質、自分のいろんな部分を高める。まだまだ伸びる。これからも成長、進化できるようにやっていきたい」 目指すは「一発ももらわずに打つ」究極のボクシングである。 2021年の目標を色紙に「統一王者」と書いた。 3月13日にはWBC世界同級王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)とWBA世界同級王者のローマン・ゴンサレス(ニカラグア・帝拳)の2人が2団体統一戦を戦う。 「少し前まではエストラーダの評価が高かったが、あまりいいパフォーマンスができていない。相手が嫌がるディフェンス力の高いボクシングができずに最近はパンチをもらう。ローマン・ゴンサレスに地力というか、元々の強さがあるなと感じる。ロマゴンが有利じゃないかな」というのが予想。 その勝者に勝てるのか?と聞くと「勝ちます。勝つのは僕しかいない」と断言した。田中戦で有言実行を果たした男の言葉だけに単なる威勢には聞こえない。 海外メディアによると、この試合の勝者への優先挑戦者は、前WBC世界王者のシーサケット・ソールビンサイ(タイ)が持つようだが、井岡は、統一戦を待たされるとしても「やると決めたこと。モチベーションは関係ない。決めたことをやるだけで、そこ(やれるやれない)で左右されることはない」とぶれなかった。
総合格闘家の堀口恭司も「RIZIN史上最大のリベンジ戦」と銘打たれた朝倉海との再戦で井岡と同様に「格の違い」を差を見せつける鮮烈のTKO勝利を飾った。 堀口は、試合が終わった直後に宿泊先のホテルで語ったインタビュー映像を自身の公式YouTubeチャンネルで配信した。堀口復活の反響を示すかのように同映像は1日の段階ですでに約44万回を超える視聴回数を数えた。 「ベルトを欲しくてやっているわけじゃなく、みんなの笑顔を見たくてやっている。“やってやったぞ”と、ちょっとうれしい」 堀口は、両親、サポートしてくれたメンバーやファンに感謝の気持ちをガラガラに枯れた声で伝えた。米国フロリダと日本の乾燥した気候の違いで喉をやられ、おまけに勝利後にリング上で絶叫を続けて声が潰れてしまったという。 勝因については「対策が生きた」と語った。 堀口は2019年8月に朝倉海に68秒で敗れた。本来は、その年の大晦日に再戦予定だったが、だましだまし戦っていた右膝や腰がいよいよ動かなくなり、前十字靭帯、半月板の手術を受けて長いブランクを作った。苦しいリハビリと向き合い、時には「膝が使えなくなったら使えないなりのファイトスタイルに変えればいい」との覚悟を決めながら、前回の試合では、ほとんどできなかった朝倉海の分析、対策に時間を費やした。 その結晶が朝倉海のふくらはぎを破壊した計4発の「カーフキック」である。 「もっと寝技にいこうかなとも思っていたが、そこは読まれていた。打撃だけで行けると向き合ったときに判断した」 ファーストコンタクトとなった一発目のカーフキックは「(相手の)足が流れてそんなに効いていない」と感じたが「2発目、3発目が入った頃から、“ああ動かない”となったので、しっかり効いたと思った」という。 配信の中ではセコンドに入ったATTの名参謀マイク・ブラウン・トレーナーと、亡くなられた空手の恩師、二瓶弘宇氏の次男、竜宇氏の2人も登場。堀口が流暢な英語で通訳を務めブラウン・トレーナーが「過去3、4年は、こんな感じだった。この試合ではちょっと違う武器(カーフキック)を発揮したが、もっと引き出しはある」と語れば、二瓶竜宇氏も「プラン通りにいった。もっと長引いていてもタックルなどで勝つ方法があった」と、さらにBプラン、Cプランが用意されていたことを明かした。 堀口は、試合中も、ブラウン・トレーナーの「カーフが効いているぞ」という声が聞こえていたという。 堀口は試合前に1年4か月の間の進化の手ごたえをこう口にしていた。 「自分の元々のスタイルにどんどん技をつけ加えた。膝が壊れて動けない期間があったが、動けないなりの技をつけ加えた。自分は日本にいるとき感性でやってきた。でもアメリカでは相手を研究して弱点を見つける。感覚もあるし戦略も練る。そこも去年とは違う」 堀口もまた試合のできないピンチを練習拠点のあるアメリカで自身を進化させる力に変えた。支えたのは「オレが負けるはずがない」という揺るがぬ自信である。 そして試合後のYouTubeでは、こうも語った。 「また強くなったと思った」 堀口は2019年11月に手術が決まったと同時に米国のUFCに次ぐ超メジャー格闘団体「ベラトール」のバンタム級のベルトを返上していた。次なる目標は、現王者、ファン・アーチュレッタ(米国)との“2冠統一戦”だ。3月14日のRIZIN東京ドーム大会での実現が有力視されている。