【宇宙飛行士 野口聡一×大江麻理子 対談】イーロン・マスクが宇宙産業を席巻
通信衛星の軍事利用などにより宇宙を制する者が権力を持つ可能性も
大江 今、ウクライナではロシアとの戦闘が続いていますが、その中でスターリンクの通信衛星も重要な役割を果たしています。地政学にも影響を与えていますね。 野口 そこは大事なポイントですね。民間企業がインターネットが通じないところで通信できるようにと上げていたものが、軍事利用されている。 大江 そうなると、国と国の関係だけではなくて、スペースXやイーロン・マスク氏の意向次第で戦況も変わってしまうというか。随分大きな権力を、宇宙を制する者が握るのかもしれません。最近、人工衛星を打ち上げる国も増えていますね。 野口 そうですね。今、サウジアラビアやUAEも宇宙大国になりつつあります。宇宙の技術って思っているほど最先端ではない部分もあり、資金力とやる気と人材があればどこの国でも宇宙船を上げられるんです。 大江 有人宇宙飛行の起点となる国際宇宙ステーションの老朽化が進んでいます。運用は何年までですか? 野口 今のところ2030年ですね。 大江 その後どうするかというところで、今民間企業がいっぱい手を挙げていますよね。 野口 僕も今、そういう企業のお手伝いをしてるんですけれど、宇宙ステーションは地球の周りを地球が見えるところで回っていることに意味があるので、施設の利用は今後も残ると思います。月面は月面で今別の動きがあるんですけれども。行き先の駅である宇宙ステーションを一生懸命作ろうとしている中で、行く手段である乗り物の開発も重要です。
宇宙にものを打ち上げる低コスト化においてもスペースX社が圧倒的!
野口 最後に、宇宙にものを打ち上げるときのコストの変化について紹介しましょう。1キロのものを宇宙に持っていくのに、ずっと約1万ドルかかると言われていたんですが、少しずつ下がってきて、今なんと200ドルくらいまで下がってきてるんです。それを実現したのもスペースX社です。しかもスペースXだけがズドーンとコストが下がっています。 大江 ケタ違いの価格破壊ですね。なぜそんなことができるのですか。 野口 再利用です。同じものを使うのがうまくいった例なんです。たとえば東京からニューヨークに行くのにジェット機に乗りますよね。ジェット機ってだいたい100億円なんですよ。もしも1回飛んで使い捨てにしてしまうと、100人乗っていくと仮定して、一人一シート1億円です。でも実際には燃料を詰め替えて帰ってきて、何百回何千回も使うから10万円くらい? 今はもう少し高いかもしれませんけれど、再利用することで価格を下げているんですね。宇宙に関しても同じようなことが言えるということです。2020年に僕たちが乗ったスペースXのファルコン9という宇宙船は圧倒的な低コストを実現したロケットです。今はさらに下がっています。まさにこの5年くらいで急激に宇宙が面白い時代に入ってきてるんです。 大江 ロケットのコスト競争力に差がついていることを改めて知ることができて大興奮です。ありがとうございます。大変勉強になりました!