祖母の「人生」に重ねた〝洗濯バサミ〟 「西日を浴びて輝いていた…」アートにして広がった世界
洗濯バサミを使って、植物や食べ物などを表現するクリエイターがいます。洗濯物をとめる存在をアート作品にして発信する背景には、祖母の人生と重ねた「輝く洗濯バサミ」の思い出がありました。(withnews編集部・河原夏季) 【画像】「だまされた」と話題の〝洗濯バサミアート〟
洗濯バサミの「花」が咲いた
藤の花やツツジ、ネモフィラ、かき氷、クリームソーダ、昇り龍……。「洗濯バサミフォトグラファー」の岡本なうさん(@okaphotoart)は、2年前から洗濯バサミを使ってアート作品を作っています。 2021年から洗濯バサミをテーマに投稿を始めました。 初めは洗濯バサミそのものの写真をアップしていましたが、ターニングポイントとなったのは2022年4月20日に投稿した「洗濯バサミ草」と、5月4日に投稿した「洗濯バサミ草の花」です。 洗濯バサミの「美しさ」を見てもらいたいと撮影する中で、つまようじに緑色の洗濯バサミをつけて庭に植え、そこにタンポポをモチーフにした黄色い花を咲かせました。 投稿にはそれぞれ700前後の「いいね」が集まり、「思っていたよりもみなさんに楽しんでいただけた感触があり、現在につながる『洗濯バサミアート』を作るきっかけになった」といいます。
洗濯バサミと重ねた〝祖母の人生〟
岡本さんが洗濯バサミの美しさに気づいたのは2021年、祖母との別れがきっかけでした。 幼い頃から一緒に暮らしていた祖母は、初孫だった岡本さんをとてもかわいがってくれていました。祖母からは、「生まれた家が貧しく、小学生の頃に丁稚(でっち)奉公に出されて赤ちゃんの世話をしていた」という話をよく聞いていたそうです。 「実家に帰れるのはお盆とお正月だけ。祖母の1年分の対価が事前に払われているのを知っていたため、我慢して過ごしていたとのことでした」 腰が90度に曲がり、小さく細かった祖母。子ども時代の経験があってか「ものすごく働き者で、とにかくどんな暗い顔も見せない人」だったそうです。 そんなおばあちゃんっ子だった岡本さん。幼稚園生の頃から、「祖母が自分よりも先にこの世からいなくなることが最大の恐怖」と感じていました。 2021年の冬、祖母は脳梗塞のため88歳で旅立ちました。 「幼稚園児だった自分が想像していた『恐怖』が現実になったんだな……」。気を落とし縁台に腰掛けていた岡本さん。ふと、庭の洗濯バサミが目に入りました。 「西日を浴びて洗濯バサミハンガーの中で光り輝いている洗濯バサミの美しい姿に、大きな衝撃を受けました。年季が入って、どこか疲れたような生活感があるのに、洗濯物を取り込んだ後にこんなに輝いている」 洗濯バサミの姿に、祖母の人生を重ねました。 「慎ましく家族のために生きてきたその人生は、きっとこの洗濯バサミのように僕の知る意外にも多くの場所と時間の中で、命の輝きを放ち続けたんじゃないだろうか」 長年日光を浴びて黄色がかっていた透明の洗濯バサミを見ながら、これまで刻まれてきた時間と祖母の人生に思いを馳せたといいます。 「誰もが生まれたままの無色透明で『キレイ』な洗濯バサミではいられないのだけれど、人生の黄昏(たそがれ)はきっと、この洗濯バサミのように『美しい』黄金の輝きをともしているのかもしれません。また、人生はいつどんな場所で光がさすか分からないと、自分の半生を励まされたようにも感じました」