セレッソ退団で”問題児”レッテルを貼られた可能性のある元日本代表FW乾貴士の新天地探しはスムーズに進むのか?
クラブ側から当面の謹慎処分を科された乾は、4月10日のヴィッセル神戸戦、同13日の鹿島アントラーズとのYBCルヴァンカップでベンチ外となった。14日に決まった最終的な処分で、さらに公式戦6試合の出場停止を科された。この間、練習場への立ち入りは許されたが、全体練習への参加は引き続き禁止された。 謹慎処分は5月14日の名古屋グランパス戦をもって解除されたが、乾自身は全体練習へ参加しない状況が続いていた。その間に幾度となく話し合いの場が設けられ、森島社長は柏戦をめぐる問題そのものは和解したと明かしたが、チームへ合流するタイミングを見つけられないまま契約解除による退団が決まった。 おそらくは現場レベルで生じた感情的な隔たりや溝を、最後まで修復できなかったと見られる。違約金が発生しない移籍が可能となり、新天地を求める上で大きな障壁がなくなった意味で、シーズン半ばでの契約解除にはセレッソ側の温情もあったはずだ。 それでも「大好きなサッカーを続けていく」と現役続行を希望する乾にとって、決して楽観視できない状況が今後に待ち構えているといっていい。 今月2日に乾は34歳になった。プレーやピッチ内外での立ち居振る舞いを介して、若手や中堅へ規範を示す立場のベテランが逆にチームの和を乱し、長期謹慎処分を科された末に退団した事実は、現場が扱いにくい選手というイメージを生み出した。 コロナ禍でJクラブの大半が減収に転じている状況で、2億円(推定)の年俸には乾サイドも減額に応じるだろう。しかし、攻撃面でのプラスを相殺し、場合によっては他の面でのマイナスが上回ると判断されれば、必然的に各クラブの動きは鈍くなる。 海外への再挑戦に関しても、厳しい道が待つと言わざるをえない。 乾自身は2020-21シーズンで最下位に終わり、ラ・リーガ2部へ降格したエイバルを昨年6月に退団。引き続きラ・リーガ1部でプレーできる可能性を探っていたが、納得できるオファーが届かなかった同8月下旬に、昨夏を含めて節目節目でラブコールを送ってきた古巣セレッソへ10年ぶりに復帰した経緯があった。 盟友でもある元日本代表のMF香川真司(シント・トロイデン)はかつて、30歳を超えると「特にヨーロッパでは、シビアな視線で見られる」と自身の経験を踏まえながら語っている。34歳になった乾には、年齢面だけで厳しい立場に置かれる。 公式ウェブサイトに寄せたコメントで、乾は「僕はセレッソ大阪の選手ではなくなりますが、セレッソの選手としてこれまで全力でプレーしてきました」とも綴っている。ほぼ同時に更新したツイッターやインスタグラムでは、「大好きなセレッソを強くしたいと思って帰ってきましたが、力になれずすいませんでした」とも謝罪した。 プレーに脈打たせる熱さは、歴代のミスターセレッソが象徴としてきた「8番」を、今シーズンから志願する形で背負った覚悟と決意が証明している。だからこそ初代ミスターセレッソとして「8番」を背負い、日本代表として2度のワールドカップに出場した森島社長もコメントのなかで「感謝の思いでいっぱいです」と綴った。 しかし、自分自身へ募らせた不甲斐なさと相まって、コントロールしきれないほど高ぶった乾の感情が、愛してやまないと公言していたセレッソとの別れを招いてしまった。果たして、問題児の印象を強烈に刻み込んだ乾を必要とするクラブは現れるのか。Jリーグの夏の移籍ウインドー期間は、約1ヵ月後の7月15日からスタートする。 (文責・藤江直人/スポーツライター)