17歳で先生からの性暴力に苦しんだ私が思い出す「バイアグラ服用後」の悪夢
11月25日、厚生労働省は、勃起不全(ED)治療薬「タダラフィル」(製品名「シアリス」)など、3つの成分に対して、薬局販売が可能なスイッチOTC化に向けて、一般からの意見募集を始めたことを発表した。不妊や家族間の不和などを解消することを目的としているが、「時短スキーム」で検討が進められるという。 【漫画】「男女関係なく、中絶に関する情報はとても大切」鳥飼茜が作品で伝えたいこと この報道に、翻訳家でライターの桑沢まりかさんは言葉を失い、心が閉じていくのを感じたという。桑沢さんは、10代の頃に受けた性暴力で傷つき、今もその治療と戦いながら性暴力の問題や緊急避妊薬や中絶の問題など女性が受ける問題をテーマに寄稿を続けている。すでに発売されている勃起不全(ED)治療薬「バイアグラ」の恐ろしい記憶……。 時短スキームのED治療薬の検討、そして、緊急避妊薬のOTC化などについては今もなお課題は尽きず、解消されない。この差は一体なぜなのか? この問題について『#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト』の共同代表のひとりでSRHR(性と生殖に関する健康と権利)アクティビストの福田和子さんに取材し、桑沢さんが前後編で寄稿してくれた。
バイアグラは悪夢の記憶でしかない
「バイアグラ」――勃起不全(ED)治療薬。 この固有名詞には恐怖の記憶しかない。10代の頃、私に性暴力を振るっていた教師Aの苛立つ恐ろしい形相と重なるのだ。 私は17歳からおよそ2年半に渡り、小学校時代に出会った教師Aから性暴力を受けていた。当時50代だったAは、私と会う前にバイアグラをしばしば服用していた。 バイアグラは勃起不全(ED)の治療薬だが、Aにいわゆる勃起不全の症状があったわけではない。実際、毎回服用していたわけではなかった。当時はそれがどういうことかわからなかったが、今となってみるとAにとっては、あくまでも楽しむために、長く保つための服用に違いない。「今日は多めに飲んできた」と興奮して言う日もあり、きっとネットなどで入手していたのだろう。 相手がバイアグラを飲んだ日は、私にとって地獄が深まることを意味した。服用すると、性的な欲求が高まるだけでなく、会ったときからAは苛ついていた。もともと支配による恐怖を押し付けられ、「逃げる」という思考を閉ざされるような扱いを受けていたが、バイアグラを服用すると、そういった態度がいつも以上により一層手荒くなった。そして、相手の欲求に応えるしかない絶望の時間も長くなってしまう……。私のからだと心への負担は大きくなるばかりだった。長時間の行為によって傷ついた心といつまでも続く独特の腟の痛みを、私は今でも、いや、生涯忘れないだろう。 Aといっしょにいるとき、突然生理が来たことがあった。ホテルでそのことに気づくとAはキレた。「今日はバイアグラを飲んできたのに、なんなんだ!」と言い放ち、激高した。「なんなんだ!」と言われても、どうすることもできない。そして、それで解放されるわけもなく、相手は不満と欲求をぶちまけ帰っていった。私にとって「バイアグラ」という勃起不全(ED)治療薬は、悪夢の記憶しかない。