“医師の裁量権”の名のまま野放し状態…「がん免疫療法」うたう自由診療に潜む本当の怖さ 日本人は「あやしい医療」の実態を知らなすぎる
■有効性よりも安全性が重要 このような状況下で、このクリニックがどうやってガスダーミンを手に入れたのかはまったく不明であるが、少なくとも、人間に未知の物質を投与する際には、有効性よりも安全性が問題となる。 ましてや、基礎研究でサイトカイン症候群が示唆されるような物質を投与するのであれば、厳密な臨床試験を行わなければならない。 マウス実験で有効とされたものでも、人間への効果は別物で、有効性も副作用もまったく不明であるといってよい。
一般的に、新薬の臨床開発は第1相試験から始まる。 第1相試験は、動物実験が終わった段階で、人間への安全性がまったくわかっていない状況で開始するもので、非常に少ない投与量から、徐々に薬剤の投与量を増やしていく。人間に安全に投与できるかという臨床試験であるため、非常に厳格に行われ、がんの新薬の場合は、がんセンターなどの専門施設でしか行われない。 このような臨床試験は、通常であれば、国に届け出がなされ、許可を受ける必要があり、施設での厳密な倫理委員会でも審議する必要がある。
もちろん、臨床試験を受ける患者には厳格なインフォームド・コンセントを受けてもらう必要があり、説明内容には、「あくまでも研究であり、効果はまだほとんど期待できるようなものではない」ことが記載されなければならない。 第1相試験が厳格に行われ、安全性がクリアされると、第2相試験、第3相試験と、より多くの患者に対して幅広く臨床試験が行われる。 この段階になっても「あくまでも研究であり、効果はまだほとんど期待できるようなものではない」とのインフォームド・コンセントがなされる。なぜなら、人間に対する有効性を証明するものだからだ。
そして、第3相試験(ランダム化比較試験とも呼ばれ、従来の標準治療と有効性を比較する臨床試験)をクリアして、初めて有効性が証明され、承認、保険適応となる。 このような臨床試験は世界中で行われているが、臨床試験の道のりは厳しく、第1相試験段階で成功した物質が、薬として承認される可能性は3%と非常に低い。それだけ、人間に効く治療薬を開発するのは難しいということである。 安全性も有効性も未知な製品化もされていない物質が、臨床試験でもなく、勝手に患者に投与されるのは、人体実験といってもよいレベルの行為であり、医療倫理的にも大きな問題であると筆者は思っている。