“医師の裁量権”の名のまま野放し状態…「がん免疫療法」うたう自由診療に潜む本当の怖さ 日本人は「あやしい医療」の実態を知らなすぎる
先日、大手の新聞などで「がん自由診療で死亡」というニュースが報じられた。筆者も本件で取材を受けた。 進行がんの患者が「がん細胞を死滅させる」と説明を受け、自由診療でがんの総合医療を行うクリニックで、「ガスダーミン」という物質を投与された。その後、動脈に血栓ができて、がん性腹膜炎という状況になり、死亡したというケースである。 ■ガスダーミンという物質とは? ガスダーミンが直接、動脈血栓を起こしたり、死亡した要因になったりしたのかは、詳細がわからないので因果関係は不明だ。
だが、ガスダーミンについては、最近の医学研究では、がん細胞を叩く免疫のシステムを強化する因子であることが、2020年に科学雑誌『Nature』に報告され、新規の治療薬になる可能性があるとして、注目されていた。 ただし、このガスダーミンの研究は、すべて細胞レベル、マウス実験レベルのもので、まだヒトを対象にした研究にはいたってはいない。 世界中の新薬の治験が登録されているClinicalTrials.govで検索しても、ガスダーミンタンパクの発現レベルを研究しているものはあるが、治療薬として登録されたものはない。日本での治験も行われていない。
ガスダーミンにはAからEまでガスダーミンファミリーと呼ばれる複数の物質があるものの、どのガスダーミンががん治療としての効果を期待できるのかは、まだよくわかっていない。 反対に、これまでの研究結果を見ると、ガスダーミンは多くの炎症性サイトカインという物質を放出することがわかっている。 がんの免疫療法薬には、すでにオプジーボやCAR-T細胞療法など、有効性が証明され、製品にもなっているものがある。だが、その一方で「サイトカイン症候群」と呼ばれる、サイトカインが大量に放出されることで起こる副作用が問題となっている。
このサイトカイン症候群は、ときに重症化して多臓器不全を起こし、死に至ることもある。また、全身に血栓ができる播種(はしゅ)性血管内凝固症候群という、手遅れになると致命的な症状を引き起こすことも報告されている。 ガスダーミンがまだ臨床開発にいたっていないのは、正確に標的となる物質が同定、精製されていない問題や、サイトカイン症候群の問題点などがあるからだ。そのため、臨床開発まで進んでいない可能性があるのではないかと、筆者は推察している。