裏金質問はNG…知事は指示否定、責任は? 規制でないと強弁から一転謝罪、記者が見た山梨県の「ドタバタ劇」
2024年2月、山梨県庁で県の広報担当者が口にした言葉に耳を疑った。「政治資金の質問は削除してほしい」「削除しなければ取材に応じるのは難しい」。報道各社による長崎幸太郎知事への個別インタビューの実施に先立ち、県が自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の関連質問を扱わないよう、突如求めたからだ。 【写真】陳謝する党総裁の岸田首相
当初、県は取材活動規制の意図を否定し「調整を提案した」と強弁。報道側の抗議を2度受け、一転して謝罪する事態に至った。長崎氏は一貫して自身の指示を否定。一方、県職員には「政治資金関連の質問は別の場で聞いてほしい」との趣旨を伝えたと認めたものの、知事の責任の所在は曖昧なままだ。 有識者からは「質問封じは国民の知る権利を阻害する」との指摘も続出。県側の対応が約2カ月にわたり「ドタバタ劇」を繰り広げた面は否めない。県政取材を担当する一記者として、一連の問題を振り返る。(共同通信=味園愛美) ▽自民元幹事長に近い知事が政治資金不記載疑いで告発される 発端は1月20日の記者会見にさかのぼる。長崎知事が、自身の資金管理団体「日本金融経済研究フォーラム21」の2019~22年分の政治資金収支報告書に、自民党二階派からの寄付金1182万円を記載していなかったと発表。二階派から現金を受け取り、事務所の金庫に保管したまま失念したと説明した。
長崎氏は財務省出身。2005年衆院選で初当選し、衆院議員を3期務めた。2017年の落選後、二階派会長で自民党の二階俊博幹事長(当時)が幹事長政策補佐に起用。長崎氏は衆院議員時代から2019年の知事就任後の現在まで一貫して、二階派に所属する。 会見前日の1月19日、東京地検特捜部は政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で二階派の元会計責任者を在宅起訴。関係者によると、2018年からの5年間に収入と支出を計約3億8千万円少なく記載したとされる。 こうした中、1月30日に市民団体が政治資金規正法違反容疑で長崎氏に対する告発状を甲府地検へ提出。裏金事件への注目が集まっており、報道各社がインタビューで長崎氏に不記載問題を尋ねるのは必然と言えた。 ▽質問取りやめ要請巡り県職員と押し問答 そもそも長崎知事が就任6年目のインタビューに応じるとして、山梨県政記者クラブ加盟の14社中12社が希望し、県の広聴広報グループが調整を進めた。当初の計画では(1)新聞・通信各社が一斉に取材するグループ方式(2)テレビ各局が別々に取材する個別方式―の2通りで実施する予定だった。