「技術を磨くより大切」…”習慣嫌い”の作家・小川哲が欠かさず行っている「ただ一つのコト」
小川哲(作家)/'86年、千葉県生まれ。『ユートロニカのこちら側』でハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し作家デビュー。'23年には『地図と拳』で直木賞を受賞した 【一覧】占星術研究家・鏡リュウジが「12星座別の運気」を徹底解説!
「脳の活動を100%にしたいからたっぷり9時間睡眠」
「習慣」が嫌いで小説家になったから、習慣と呼べるようなものはほとんどない。 何かないかとひねり出してみて、ようやく思いついたことがある。毎日欠かさず行い、小説を書くうえで最も大切にしていることだ。 それは、たっぷり眠ること。毎日、9時間くらいは睡眠をとって、脳が100%に近い状態で活動できるようにしている。小説の技術を磨くよりも、よっぽどこっちのほうが仕事の質を上げると思っている。創作が面白くなる瞬間を逃さない状態を維持することが僕にとって一番重要なことだ。 睡眠のコツは特にない。目覚ましをかけない、ネットで〈ベッド おすすめ〉で検索して出てくるようなベッドを使うといったことくらいだ。 あともう1つ、「習慣」とぎりぎり呼べるのは、創作のインスピレーションを得るために興味のない分野の本を読むようにしていることだ。自分が触れてこなかった世界で、触れてこなかった考え方や常識があることを知ったとき、それを小説に当てはめて考えてみると新しい発想が生まれるような気がする。 日々の習慣と言えるのはこれくらいだが、創作のリズムはデビューして約10年が経った今でもあまり変わっていない。コツコツ書き進めるわけではないけど、朝起きて「そろそろ始めるか」と思ったら机に向かって、締め切りが近くなると集中的に書くといった具合だ。
変わったのは読者に対する解像度
そういった変わらないことがある一方で、「考え方」は大きく変わったように感じる。 世の中には多くの読者がいて、それぞれが僕と違った価値観を持っている。そういう当たり前の事実を受け入れるようになってきた。だから執筆のときは、過去・現在・未来の自分が興味を持てるか、想定する読者が過剰なストレスなく読んでくれるか、編集者はどう思うか、などを総合的に勘案している。 今は、自分が求めることをどうやって表現するのか、という問題と、異なる考え方を持つ人々にも深く届く作品とは何か、という問題を考えている。 「週刊現代」2024年12月28・2025年1月4日号より
週刊現代(講談社・月曜・金曜発売)