親の介護が必要になったら?負担を軽くするコツとトラブル解決策
2.親の介護が始まる前に やっておきたい7つのこと
親の介護は、ある日突然、電話一本から始まることも多いものです。親はどのような介護を望んでいるのか、また、親の経済状況などはどうなっているのかがわからないと、どうしたらよいのか迷ってしまうでしょう。 いざというときのためにも、まずは、親が65歳、または子どもが40歳になったら家族間で準備をしておきましょう。 (1)親の意向を確認 突然親が倒れ、意思確認ができなくなったとき、子どもは何をどうすればよいのか困惑し、親の意向にそぐわない決定をする場合があります。子どもは、親が元気なうちに十分なコミュニケーションをとり、親の考え方や意思を確認することが大切です。 例えば、親が要介護になった場合、在宅介護か施設介護を希望しているのか、延命措置を含めて終末期をどのように過ごしたいのかなどはマストで確認しておきたいところです。 また、親の趣味や好きな食べ物、近所との付き合い、健康状態などを把握しておくことで、介護になった場合、近所の人たちに協力を仰げたり、ケアマネジャーに適切に親の状態を伝えたりできます。 (2)親の収入や財産を把握 介護費用には、介護保険サービス費用(自己負担1~3割)以外にも、多くのお金がかかります。親の介護費用は親の財産で賄うのが大原則であるため、親の収入や財産をある程度把握しておく必要があります。 元気な親に財産状況などを聞きにくい場合は「友達の親が介護になってお金が大変」などの実例をあげながらアプローチしてみてはどうでしょうか。 〈確認しておくべき親のお金の情報例〉 ●預貯金額(金融機関名、キャッシュカードの有無) ●毎月の手取りの年金額、年金以外の収入 ●株や投資信託などの有価証券 ●自宅などの不動産 ●加入している保険の保障内容など(保険証券の保管場所) ●借金の有無 (3)介護費用の概算を確認 介護費用は、要介護度や在宅介護、施設介護などで違ってきます。また、施設介護であっても、公的施設に入所する場合と有料老人ホームなどの民間施設に入居する場合で費用は異なってきます。 生命保険文化センターの2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査(https://www.jili.or.jp/files/research/zenkokujittai/pdf/r3/2021honshi_all.pdf)によると、住宅改造や介護用ベッドの購入などの一時費用は平均74万円、月々の介護費用は平均8.3万円となっています。なお、在宅介護か施設介護かで費用が異なり、在宅介護の場合は4.8万円、施設介護では12.2万円となっています。 また、介護期間の平均は61.1カ月(約5年1カ月)です。介護費用総額を調査結果から単純に算出すると約580万円になります。 一時費用74万円 +(毎月の介護費用8.3万円 × 61カ月)=580.3万円 なお、介護期間10年以上が17.6%と前回調査に比べ3.1ポイントも増えており、今後も介護期間は長くなる可能性があります。介護期間の延長に伴い介護費用も増加していくことが予想されます。 (4)介護保険サービスの概略確認 介護保険サービスを利用するためには、市区町村に申請して要介護認定を受ける必要があります。介護保険証があるからといって、健康保険証と同じようにすぐにサービスを利用できるわけではありません。 申請後、訪問調査や介護認定審査会などを経て、介護を必要とする度合い(予防給付を受けられる要支援1・2、介護給付が受けられる要介護1~5)が認定されます。その後、ケアプラン(もしくは、介護予防ケアプラン)を作成してもらい、そのケアプラン(もしくは、介護予防ケアプラン)に基づいたサービスを利用します。 利用者の自己負担は、介護サービスにかかった費用の1割(一定以上所得者の場合は2割または3割)です。 介護保険サービスには多くの種類があります。介護保険サービスは、自宅で利用するだけでなく、自宅から通って利用したり、施設に入所して利用したりします。ほかにも、地域に住む住民しか利用できない地域密着型サービスもあります。 【自宅でサービスを利用する】 ・訪問介護(ホームヘルプ) 要介護1~5 ・訪問入浴介護 要介護1~5、要支援1~2 ・訪問看護 要介護1~5、要支援1~2 ・訪問リハビリ 要介護1~5、要支援1~2 ・夜間対応型訪問介護(地域密着型サービス) 要介護1~5 ・定期巡回・随時対応型訪問介護看護(地域密着型サービス)要介護1~5 【自宅から施設に通ってサービスを利用する】 ・通所介護(デイサービス) 要介護1~5 ・通所リハビリ(デイケア) 要介護1~5、要支援1~2 ・地域密着型通所介護(地域密着型サービス) 要介護1~5 ・療養通所介護(地域密着型サービス) 要介護1~5 ・認知症対応型通所介護(地域密着型サービス)要介護1~5、要支援1~2で認知症の高齢者 【自宅、通い、宿泊を組み合わせてサービスを利用する】 ・小規模多機能型居宅介護(地域密着型サービス) 要介護1~5、要支援1~2 ・看護小規模多機能型居宅介護(地域密着型サービス) 要介護1~5 【短期間の宿泊してサービスを利用する】 ・短期入所生活介護(ショートステイ) 要介護1~5、要支援1~2 ・短期入所療養介護 要介護1~5、要支援1~2 【施設に入所してサービスを利用する】 ・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) 原則、要介護3~5 ・介護老人保健施設(老健) 要介護1~5 ・介護医療院 要介護1~5 ・特定施設入居者生活介護(有料老人ホームなどに入居してサービスを利用する)要介護1~5、要支援1~2 ・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)(地域密着型サービス)要介護1~5、要支援2 ・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 (地域密着型サービス)要介護1~5 ・地域密着型特定施設入居者生活介護(地域密着型サービス)要介護1~5 【その他】 ・福祉用具貸与 要介護1~5、要支援1~2 ・特定福祉用具販売 要介護1~5、要支援1~2 ・住宅改修費支給 要介護1~5、要支援1~2 ※令和6年4月1日から一部の福祉用具については、利用方法(福祉用具貸与または特定福祉用具販売)が選択できます。 ※参照:介護サービス情報公表システム|厚生労働省,福祉用具・住宅改修|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html) 介護保険サービス以外にも、利用できるサービスがあります。例えば、理容師、美容師が訪問してくれてカットやシャンプーなどを行ってくれる「訪問理容サービス」や昼食や夕食を届けてくれる「配食サービス」などです。このようなサービスは、介護保険サービスと異なり、全額利用者負担です。 (5)管轄の地域包括支援センターの確認 地域包括支援センターとは、高齢者の総合相談窓口です。市町村が設置主体となり保健師や看護師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの資格を持つ職員が中心となって、高齢者の総合的な相談、支援をおこないます。なお、ケアマネジャーとは、介護の知識を幅広く持った専門家で、正式名称を「介護支援専門員」といいます。 また、相談料は無料で概ね中学校の学区に1カ所ほど設置され、全国で5,431カ所、ブランチなどを含めると7,397カ所(2023年4月末現在)あります(参照:地域包括支援センターについて|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001236442.pdf)。 地域包括支援センターでは、介護に限らず、高齢者の悩みであれば何でも相談することができ、本人だけでなく子どもなど家族からの相談も可能です。事前に、親の住んでいる管轄の地域包括支援センターを確認しておくとよいでしょう。 【地域包括センターの主な役割】 ■総合相談支援業務 高齢者に関するさまざまな相談を受け、適切な機関や制度、サービスに繋ぎ、必要な支援の実施 ■権利擁護業務 関係する機関と連携して、高齢者の権利と財産を守るための支援や、虐待防止の取り組み ■包括的・継続的ケアマ ネジメント支援業務 高齢者の自立を支援するケアマネジメントの支援として、介護支援専門員(ケアマネジャー)への日常的な指導、相談、助言 ■介護予防ケアマネジメント 要支援・要介護状態になる可能性のある人に対する介護予防ケアプランの作成や、介護予防に関する事業が円滑にすすむように支援の実施 ※参照:公表されている生活関連情報について 地域包括支援センター|厚生労働省 https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish_seikatsu/) (6)仕事を辞めずに親の介護ができる制度の確認 親が要介護になった場合、退職することなく働きながら親の介護をするために「育児・介護休業法に基づく制度」が利用できます。主な制度として、家族を介護するために長期の休みを取得できる「介護休業制度」と短期の休みを取得できる「介護休暇制度」があります。 「介護休業制度」は、要介護状態にある対象家族1人につき通算93日まで休むことができます。連続して休むこともできますが、上限3回まで分割して使うこともできます。 一方、「介護休暇制度」は、年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで、1日又は時間単位でとることができます。通院の付き添い、介護サービスに必要な手続きなど短時間の取得が可能です。 【介護休業】 〈定義〉従業員が要介護状態にある対象家族を介護するためにする休業 〈利用できる人〉 ■従業員(日雇いの従業員は除く) ■期間を定めて雇用されている従業員は、申出時点において、次の要件を満たすことが必要 ・介護休業取得予定日から起算して 93日経過する日から6カ月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと ■労使協定で対象外にできる従業員 ・雇用された期間が1年未満の従業員 ・93日以内に雇用関係が終了する従業員 ・週の所定労働日数が2日以下の従業員 〈対象となる家族〉 配偶者 (事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫 〈日数〉 対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割可能 〈手続き〉 休業開始予定日の2週間前までに、書面等により事業主に申出 【介護休暇】 〈定義〉 従業員が要介護状態にある対象家族の介護や世話をするための休暇 〈利用できる人〉 ■従業員(日雇いの従業員は除く) ■労使協定で対象外にできる従業員 ・勤続6カ月未満の従業員 ・週の所定労働日数が2日以下の従業員 〈対象となる家族〉 配偶者 (事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫 〈日数〉 ・1年に5日まで(対象家族が2人以上の場合は10日まで) ・1日または時間単位で取得可能 〈手続き〉 書面の提出に限定されておらず、口頭での申出も可能 ※参照:介護休業について|厚生労働省,介護休暇について|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/closed/index.html) ほかにも、法律で「所定外労働の制限」「時間外労働の制限」などが定められています。また、勤務先独自で介護と仕事の両立に取り組んでいる事例もあるため、ご自身の勤務先に一度確認してみましょう。 また、人事課や直属の上司だけではなく、介護経験のある他部門の上司や同僚などにも相談してみるのもよいでしょう。介護と仕事を両立するヒントをもらえるかもしれません。 (7)きょうだい間で事前にお互いの状況の確認 親が要介護になったときに備えて、事前にきょうだい・配偶者などとよく話し合い、お互いの状況を把握しておきましょう。親が要介護になったとき、介護に関する役割分担や体制を決めやすくなります。 また、親の介護について、きょうだい間では、考え方が異なる部分も多々あります。揉め事が起きないよう、「最終的な意思決定者」を事前に決めておくとよいでしょう。 介護は予測がつきにくいため、事前に確実に準備できるものではありませんが、きょうだい間のお互いの状況や親の介護の方向性などをおおまかに決めておくべきでしょう。