近江八幡、築100年近く現役の西洋デザイン名建築の宝庫!建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの作品を建築ライターが巡ってみた
実際にヴォーリズ建築を見て歩くと、今見ても新鮮に映る細やかな工夫にあふれています。 近江八幡のヴォーリズ建築探訪の拠点となるヴォーリズ記念館は、すぐ近くに立つハイド記念館(旧幼稚園舎)の教員のための宿舎として建てられた住宅です。外から見ると不自然な位置に開けられた窓は、ここで暮らす人の健康を考え設けられたもの。様式建築の影響が強かった当時、外観デザインのまとまりの良さが優先されていたことを鑑みるとささやかながら常識破りのデザインです。
玄関周りや窓の開閉機構など、人の手が触れる箇所ほど手の込んだデザインが考えられているのもヴォーリズ建築の特徴です。一般化して広く普及することはありませんでしたが、使い手ひとりひとりに合わせて丁寧に検討を重ねた様子が伝わってくるデザインが、今でも人びとに愛される所以なのかもしれません。
「三方よし」の合言葉で知られる近江商人の町である近江八幡には、町人が使用していた町家が数多く残されています。また江戸時代に水路として整備された八幡堀は、水郷巡りが人気を集め、河岸にはレストランやカフェなど観光客向けの飲食店も立ち並び、まち歩きのスポットとして観光客を集めています。 近江八幡市内に残る町家の保存活用を手がけてきた近江八幡まちや倶楽部では、空き家となっていたヴォーリズ設計の邸宅、ウォーターハウス記念館の活用を引き受けることになります。ウォーターハウス記念館はヴォーリズと共に伝道活動を行った米国人ウォーターハウスの住宅として建てられました。一棟貸しの宿泊施設として宿泊可能なほか、ヴォーリズゆかりの料理を振る舞うランチ会なども企画し、ヴォーリズ建築を広く知ってもらう機会を提供しています。
また近江八幡まちや倶楽部では今年、ウォーターハウス記念館からヴォーリズ記念館まで合わせて9棟のヴォーリズ建築を歩いて回るスマホアプリ版のオーディオガイドをリリースしました。近江八幡市に点在するヴォーリズ建築を巡るツアーとして、年2回開催される特別ツアーや申込制の観光ボランティアによるガイドなどがある一方、個人で自由に見て歩くための情報提供はこれまで十分に進んでいなかったそう。より気軽に体験できるオーディオガイド(スマートフォンアプリ)を通じて近江八幡の町を楽しんでもらいたいという思いから、開発を行ったそうです。記念のフォトカードなどが同梱され1650円で現地で販売。収益の一部を保全活動に充てているとのこと。