「やばい」「えぐい」は正しい日本語なのか? 今さら聞けない意味と語源を言語学者に聞く
「やばい美味しい」は正しい使い方なのか?
由来からしても、ネガティブな意味として「やばい」が使われてきたことはイメージがつく。それが昨今、「やばい美味しい」「やばいかっこいい」などポジティブな形容詞をブーストする役割も帯びてきている。この変化についても新野氏に聞いた。 「2004年8月13・20日号の『週刊朝日』に、『『やばい』はすごくよいだって!? 今どき言葉の不思議』という題の記事があり、若者言葉では『やばい』を〈すごく良い〉という意味で使う、と書いてあるので、この時点ですでに肯定的な意味で使われていたことがわかります。また、2015年7月29日の朝日新聞の記事でも『ヤバい』が取り上げられ、似た例として『すごい』という言葉が元々は『ぞっとするほど恐ろしい』という意味だったものが、肯定的な意味も含めて程度の大きいことを示すように変化していると書かれていますね」(新野直哉氏) そのうえで新野氏は、やばいという言葉が「悪い意味からいい意味になった」という論調も見られるが、それは適切ではないとしている。 「変化の仕方としては『危険だ』という意味から、『いい・悪いに関係なく、程度がはなはだしい。インパクトが強く感情を揺さぶられるほどである』になったとするのが適切だと考えます」(新野直哉氏)
「えぐい」も、もともとはネガティブな意味合い
そんな「やばい」という言葉が、若い世代を中心に「えぐい」に置き換えられているのを見聞きする機会が増えてきたように感じることはないだろうか。 昨年開催された野球の世界大会WBC。その練習中の大谷翔平選手の打球を見て、当時22歳だった万波中正選手(北海道日本ハム)が「えぐい! これはえぐい!」と感動していたシーンは、テレビでも多く放送されたことからも、流行り言葉のようにも感じられる。 しかし、こちらも「やばい」と同じく、もともとはネガティブな意味合いの言葉であったと、前出の島田氏。 「元々、『えぐい』は味覚に関する語で、苦みにも似た、毒性が含まれているというサインとしての危険信号を表すものでした。そこから『やり口がえぐい(やり方が非人道的)』といったように、ネガテイブな意味で使われていました」