「やばい」「えぐい」は正しい日本語なのか? 今さら聞けない意味と語源を言語学者に聞く
どんなものにも誕生の瞬間がある。それは、私たちが普段使っている言葉も同様のこと。例えば、多くの人が何気なく使っている「やばい」という言葉は、若者言葉のようにも感じられるが、そのルーツは意外にも古く、さらに意外な場所から誕生していた。 あまりに日常的で、深く考えることのなかった「やばい」という言葉の歴史と変遷。そして今や「やばい」から置きかわりつつある「えぐい」という言葉について、専門家に解説してもらった。
明治時代に「やば」が「やばい」に
辞書によれば「やばい」の意味として「不都合である」「危険である」などの記載がある。例えば、スポーツ観戦をしていて応援しているチームがピンチ(危険・不都合)の局面を迎えれば「やばい」と感じたり、時には声に出したりするだろう。このように今では一般化した言葉だが、かつては“一部界隈”で使われていた言葉だったと、国立国語研究所・准教授の新野直哉氏は話す。 「『日本国語大辞典』の『やば』『やばい』の項でも確認できますが、江戸時代に『やば』という語があり、明治時代にそれが形容詞化した『やばい』が使われ始めるという経緯を辿っているようです」(新野直哉氏)
「やば」は牢屋の看守のこと
まず、若者言葉のイメージも強い「やばい」の元になる言葉が、江戸時代から使われていたことが驚きだ。また、この「やば」という言葉は牢屋の看守のことを意味していたという。 この点について、二松学舎大学の文学部教授・島田泰子氏は次のように補足する。 「江戸時代の歌舞伎や滑稽本に『やばな(こと)』という表現が出てくるので、『やば』が当時から使われていたのは間違いありません。明治25年(1892年)刊行の『日本隠語集』には、形容詞化した『やばい』が何度も登場します。悪事がバレそう、とか、巡回が頻繁だ(から、犯行をやりづらい)とか、そんな意味でよく使われていたようです。この書物は、捜査や取り調べの必要上から犯罪者特有の言葉遣いを集めたもの。載っているのは、説明がないと部外者には通じない、身内限定の言葉ばかり。つまり、『やばい』は、当時の反社的なやばい人たちの間で使われていた『集団語』だったのですね」(島田泰子教授)