「価格転嫁で中小企業も賃上げ」政労使のトップが言うようにうまくいく? 最前線に立つキーパーソン4人に話を聞いた
2024年春闘が本格化している。急速な物価高を上回る賃上げの実現が叫ばれるが、原資が乏しい中小企業の労働組合の多くは難しい交渉を迫られている。 【表】物価高超える所得増が実現か 24年度政府試算、定額減税で
1月、岸田文雄首相が経団連と連合のトップを交えて官邸で開いた政労使会議では、3者が口をそろえて価格転嫁の重要性を強調した。中小企業の賃上げには、人件費や原材料費を含むコストアップ分の取引価格への上乗せが鍵を握るという。しかし、本当にうまくいくのだろうか。 春闘への対応や雇用を取り巻く課題の解決に最前線に立って取り組むキーパーソン4人に2月中下旬、話を聞いた。(共同通信=高野舞、本村広志、小林まりえ) 【インタビュー(1)政府関係者】価格転嫁の指針を取りまとめた公正取引委員会の亀井明紀氏 政府は2023年11月、人件費の一部である労務費の価格転嫁に向けた指針を公表した。現場目線で書き起こされた異例の指針は話題になり、労働組合幹部からは画期的な取り組みだとの評価の声が上がった。 指針の取りまとめを担当したのが、公正取引委員会の企業取引課長の亀井明紀氏だ。 ▽指針に沿った価格転嫁の実現を
亀井氏はこう語る。「デフレ脱却に向け、労務費、原材料費、エネルギー価格の上昇分を製品価格に転嫁し、賃上げできる環境を整備することが大きなテーマだ」 コスト高に直面する中、同じ取引価格のままでは利益が圧迫され、従業員に還元する余力は生まれない。亀井氏は「中小企業は価格転嫁しないと原資が確保できない。指針に沿った価格転嫁が実現できるかどうかが問われている」と話す。 原材料費や光熱費に比べると、労務費は自社の努力の範囲内で解決するように言われ、転嫁に応じてもらいにくい。「30年間価格が据え置かれているとの声もあった」 ▽協議をせず取引価格を据え置く行為は法抵触の恐れ 今回の指針が画期的なのは、発注側の大企業に自ら動くよう求めたことだ。受注側が黙っていても、発注側から協議の場を設けるよう促している。亀井氏は「発注側が協議をせずに取引価格を据え置く行為は、独占禁止法が禁じる『優越的地位の乱用』や下請法に抵触する恐れがある」と説明する。 中小企業は労務費の上昇分を上乗せしたいと思っても、どの程度の金額が妥当なのか根拠を持って示しにくい。指針は、春闘の平均妥結額などニュースで流れる数字を合理的な根拠として明示してよいと踏み込んだ。「最低賃金の上昇率といった合理的な指標から希望額を提示できるようにするなど工夫した」