「価格転嫁で中小企業も賃上げ」政労使のトップが言うようにうまくいく? 最前線に立つキーパーソン4人に話を聞いた
指針の添付資料として、空欄を穴埋めするだけで使える価格交渉用のフォーマットを用意した。行政が一丸となってサポートしており「地方公共団体や中小企業の支援機関にも相談してほしい」と呼びかける。 【インタビュー(2)労働組合関係者】ホテル・旅行業界の春闘をけん引するサービス連合の桜田あすか氏 サービス・ツーリズム産業労働組合連合会(サービス連合)は、連合傘下の組織の中ではホテル・旅館・レジャー施設・旅行代理店などで構成する。小規模な会社が多い。新型コロナウイルス禍で旅行需要は蒸発したが、一転して昨年は訪日客が観光地に殺到し、人手不足に陥った。 桜田あすか氏は、産業界でも特に大きな変化に揺れるサービス連合の会長として、春闘をけん引する役割を担う。 ▽産業の発展に大きくかかわる正念場 桜田氏は業界の現状をこう説明する。「清掃人員が足りず客室を稼働できないなど、需要に対応しきれなくなっている。職場に残った人の負担は大きく、業界で働きたいと思ってもらうため労働条件の改善は避けて通れない。今春闘は産業の発展に大きくかかわる正念場となる」 日本の宿泊施設は良質なサービスを提供し、施設も整っているのに、宿泊料金は欧米と比べると安いという。桜田氏は「光熱費の上昇分は価格に反映できるようになってきたが、人件費の高騰分は上乗せできておらず、さらなる価格転嫁が必要だ」と指摘する。
サービス業は多くの場合、取引相手は消費者となる。値上げを受け入れてもらえるかどうかが課題だ。「働き手がいるからサービスを提供できる、と社会全体で理解してほしい」と桜田氏。「これならお金を出してもいいと思ってもらうサービスを生み出すため、デジタル技術を活用し業務を効率化すべきだ」と生産性の向上にも取り組む構えだ。 【インタビュー(3)財界関係者】中小企業の支援に力を注ぐ日本商工会議所の小山田隆氏 日本商工会議所は経団連、経済同友会とともに経済3団体の一つに数えられる。全国の商工会議所が会員で、中小企業の支援に力を注いでいる。 三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)頭取などを歴任し、現在は日商の労働委員会で労働委員長を務める小山田隆氏は、生産性向上と価格転嫁の双方が中小企業にとって重要だと力説する。 ▽供給網全体での価格転嫁が必要だ 小山田氏はこう分析する。「稼ぎを人件費に回す割合を示す労働分配率は中小企業では7~8割に達し、さらに引き上げる余地はない。賃上げ原資を稼ぐためには、生産性を向上させることと、サプライチェーン(供給網)全体、経済全体でコスト上昇分を製品に価格転嫁することが必要だ」 日商の調査によると、今春闘で賃上げ予定の中小企業のうち約6割は、業績の改善がみられないのに人材確保のために行う「防衛的賃上げ」となる。「持続的ではない。中小企業が伸びていくためには成長モデルをつくり、自己変革する必要がある。そこに伴走しながら支援したい」と小山田氏は力を込める。