「皮肉を込めた和歌や贈り物」。平安時代の宮中での「ぞっとするいじめ」裏側にある女房たちの対立
それにしても、なぜ中宮彰子の女房たちは、弘徽殿女御に仕えていた左京の君を嘲弄したのでしょうか。 元女房が舞姫の介添えになることはみじめなことであると考えられ、嘲笑の対象となってしまった。介添え役として積極的に采配を振るった左京の君は、奥ゆかしさをよしとする中宮彰子の女房らに嫌われた。こうしたさまざまな説があります。 左京の君が舞姫の介添えとして来ていることを聞いた中宮の女房たちは「面白いじゃないの。知らない顔はできないわね。昔、奥ゆかしそうな顔して勤めていた内裏に、理髪役(介添え役)として戻ってくるなんて。うまく隠れているつもりのようだけど、ご挨拶してやりましょう」と言い、中宮の御前にあるたくさんの扇のなかから蓬莱(古代中国における想像上の神山。不老不死の仙境)の絵が描かれているものを選び、童女用のくしを添えて送るのです。
年老いても若々しく介添えする左京の君には、不老不死の仙人が住む蓬莱山の扇こそお似合いという皮肉を込めて送ったのでしょうか。 また「女盛りを過ぎた方だし、くしの反り方が足りないんじゃない」と、不格好なまでに反り返ったくしを選び、「今は日陰の身のあなたを哀れと思い拝見しました」との文章も添えられました。 しかも「弘徽殿女御からの贈り物です」と使者に言づけて、左京の君に送ったのです。 ■女房同士が対立関係にあった?
左京の君の反応はわかりませんが、平安時代における一種の陰湿な嫌がらせです。 中宮や女御に仕える女房たちは、それぞれ対立関係にあり、おそらく仲はよくなかったのでしょう。そうしたことが、今回の事件につながったように思います。 さて、五節の儀式が終わった後のことも紫式部は記していて、儀式が終わると、内裏は急に寂しい雰囲気となったようです。祭りの後といった感じでしょうか。 (主要参考・引用文献一覧) ・清水好子『紫式部』(岩波書店、1973)
・今井源衛『紫式部』(吉川弘文館、1985) ・朧谷寿『藤原道長』(ミネルヴァ書房、2007) ・紫式部著、山本淳子翻訳『紫式部日記』(角川学芸出版、2010) ・倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社、2023)
濱田 浩一郎 :歴史学者、作家、評論家