実は「ごみ収集車」には「プレス式」と「回転板式」があります…ごみ収集の「知られざる世界」を届ける一冊(レビュー)
子どもの頃、ごみ収集車のミニカーがほしかった。昭和中期、当時最新式の収集車は、子どもたちの憧れの対象だったのだ。 藤井誠一郎『ごみ収集の知られざる世界』を読んであの頃の興奮が蘇る。収集車は車体後部からごみを投入するが、圧縮板がごみを粉砕していく「プレス式」と、回転板がごみを掻き上げて詰めこんでいく「回転板式」があることを、この本で知る。操作には職人技が必要だそうだ。
著者は地方自治・行政学の研究者だが、研究者になったあとで一〇か月間ごみ収集の実務についた。けがの危険もあり、ごみの汁をかぶることもある激務だ。これには驚いたが、著者の前にも同じことをした研究者がいたそうで、現場を知る努力に頭が下がる。 世の中には、収集や処理のことを考えてごみの出し方に気を配る人もいれば、ルール無用で不要なものをただ放り投げる人もいる。そんな当たり前の事実も、実際に収集作業にあたった人の目が見ると解像度が違ってくる。ごみにまつわる話は、作業員の働き方など身近なところから、業務のデジタル化などにも及ぶ。異文化と同居する地域のごみ、祭りのあとのごみ、被災地のごみなどの問題にも触れられていて、現代日本を新鮮な角度から見直すことができる。 ごみ収集は暮らしに欠かせないものだが、注目される機会は多くない。もう少し詳しく知ってみたいと思わせるこの本は、よい入門書だと思う。 [レビュアー]渡邊十絲子(詩人) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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