柏レイソル、関根大輝は「落ち込んでいた」。アジア杯後の知られざる苦労や悩み「自分には全然なかった」ことは?【コラム】
明治安田J1リーグ第16節、川崎フロンターレ対柏レイソルが25日に行われ、1-1のドローに終わった。この試合でマルシーニョを封じるなど躍動したのが、サッカーU-23日本代表DF関根大輝だ。「近未来のA代表」と評される大型SBは、U-23アジアカップ後、大きな壁にぶつかっていた。(取材・文:元川悦子) 【動画】川崎フロンターレ対柏レイソル ハイライト
●マルシーニョを封じた関根大輝の凄み 2023年の天皇杯決勝・川崎フロンターレ戦でスタメンを張った山田康太(ガンバ大阪)や椎橋慧也(名古屋グランパス)ら主力が移籍し、今季は戦力的にやや厳しいと目されていた柏レイソル。しかしながら、海外経験のある長身FW木下康介、アカデミー出身の白井永地、ロアッソ熊本で進化を遂げた島村拓弥らピンポイントの補強がプラス効果をもたらし、今季は悪くないスタートを切っている。序盤には昨季王者・ヴィッセル神戸やタレント揃いの浦和レッズを撃破するなど、底力を示しているのだ。 AFC U-23アジアカップカタール2024参戦で4試合欠場した細谷真大と関根大輝が戻った5月11日のFC東京戦以降は3戦無敗。14試合終了時点で10位と、上昇気流に乗りつつある。こうした中、25日に川崎Fとのアウェイでの天皇杯決勝リベンジマッチを迎えた。 連敗中の川崎Fは黒星街道脱出に全力を注いできた。彼らの攻撃のキーマンはやはり左FWのマルシーニョだ。爆発的なスピードと打開力を誇るウインガーを封じなければ、柏の勝利はあり得ない。マッチアップする関根もパリ五輪アジア最終予選に挑むようなメンタリティで挑んだに違いない。 「試合前からそこ(マルシーニョのところ)が川崎Fのポイントだと分かっていたので、自由にやらせないことが自分の仕事だと思っていました。チームに戻ってからの僕のパフォーマンスは納得いくものじゃなかったですし、相手がマルシーニョってこともあって、物凄く気合が入っていました」と本人もギラギラ感を前面に押し出した。 開始早々の1分、関根はいきなりマルシーニョの突破を阻止。ボールを奪うという好プレーから試合に入った。その後も快足ウイングはたびたび左サイドを打開してきたが、彼はタテ関係を形成する島村と協力しながら徹底した守りを披露。ほとんどシュートチャンスを作らせなかった。 「自分のゴールチャンスが(ドリブルで侵入した36分の)1本だけという試合もある。すごく残念に思います」とマルシーニョも反省しきりだったが、彼を苦境に追い込んだ関根らの守備が上手だったと言っていい。 ●「マルシーニョがあまり守備に参加しないという情報が…」 そういう流れのまま無失点で乗り切れたらよかったが、柏は30分に一瞬のスキを突かれ、脇坂泰斗に先制点を奪われてしまう。崩されたのは三丸拡のいる左サイドからだったが、0-1で前半を折り返したことで、チーム全体に危機感が強まった。 「マルシーニョがあまり守備に参加しないという情報があったし、実際にやっていてもそれが分かったので、ハーフタイムに周りの選手に自分がやりやすいようにパスを出してほしいと伝えた。ボール持ったら自分のよさを出せるので、そういうふうに仕向けました」と背番号32は気を引き締めた。 前向きな話し合いが奏功し、後半の柏は一気にテンポを上げ、猛攻を仕掛けた。関根もより高い位置を取り、島村、細谷らと絡みながらチャンスメークを試みた。 「前半はあまりセキのところでボールが入らなかったけど、後半は入るようになった。自分のポストプレーの回数も増えて、チャンスを作れるようになったのかなと思います」と細谷も手ごたえを口にした。 迎えた後半59分。柏はマテウス・サヴィオのFKから同点弾を叩き出す。DFのクリアボールを拾った戸嶋祥郎がシュート。これが相手に当たってゴール前にこぼれ、今季好調の木下が右足で蹴り込む形だった。 ここから逆転に持ち込むべく、彼らはさらに攻め込んでいく。70分にマルシーニョが下がって山内日向汰が入ったこともあり、関根もより積極的に前へ行けるようになった。 「今季から右サイドバック(SB)にセキが入って、最終ラインとしてはいい関係でやれている。僕らセンターバック(CB)陣は彼が気持ちよく前に絡んでいけるようにサポートすることを意識しています」とキャプテン・古賀太陽も語っていたが、頼もしい援護射撃を受け、背番号32の攻め上がりのタイミングとタッチライン際のアップダウン、要所要所で危険な場面を消す守備に磨きがかかった。秀逸なパフォーマンスによって、「近未来のA代表右サイドバック」という彼の評価もより一層、高まった。 ●カタールから帰国後「戸惑いがすごく…」 その好プレーが勝利に結びつけばよかったが、最終的には1-1のドロー。柏としては最後に与えたFKから川崎Fのジェジエウが決めたゴールがVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定で取り消される幸運もあり、何とか勝ち点1を死守した格好だ。天皇杯決勝のリベンジは果たせなかったが、最低限の結果を手にしたと言えるだろう。 「チームとしてはもっと点を取れるところが前半から何本もあったので、複数得点を奪えるようになっていきたい。自分自身もシュート練習やクロスにもっとこだわりを持ってやっていくべきだと思います」と関根もチーム・個人の課題を明確に見据えていた。 それでも、カタールから戻ってようやく納得できるプレーを見せられたことには安堵感を覚えた様子だ。U-23日本代表でアジア制覇の原動力となり、帰国した後は疲労が一気に出て、代表とチームのサッカーの違いにも直面。本来とは程遠い状態に陥ったという。 「やっぱり疲れだと思うんですけど、体が思うように動かなかった。代表とレイソルのサッカーの違いに適応する経験も自分には全然なかったんで、戸惑いがすごくありました。そういう中でも井原(正巳)監督やコーチ、先輩たちがすごく気を使ってくれた。気持ち的に落ち込んでいたところが表情にも出ていたらしく、前向きな声をかけてくれましたね。そのおかげで今回は何も考えず、シンプルにサッカーを楽しむことができた。周りにすごく感謝しています」 関根はしみじみと語ったが、年代別代表経験の乏しい彼にとって、代表とクラブの両立というのは初めて直面した難題に違いない。しかも最終予選の大活躍で注目度が飛躍的に上昇し、どこかでメンタル的な重圧も感じていたはずだ。 ただ、これから代表で活躍しようと思うなら、こういった難しさを乗り越えて、つねにハイレベルなパフォーマンスを出せるようにならなければならない。内田篤人(JFAロールモデルコーチ)や酒井宏樹(浦和)ら先輩たちの系譜を継ぐべく21歳の男には、その道を真っ直ぐに突き進んでほしいのだ。 「自分はまだまだA代表にたどり着くレベルにはないと思っています。毎熊(晟矢=セレッソ大阪)選手と対戦した時も、すごくうまかったし、全然レベルがまだ違うなと感じたから。自分にはクロス対応の守備という課題がある。攻撃でいい手応えをつかめたからこそ、守備の部分、1対1のアジリティを含めてもっと突き詰めていく必要があるんです」とカタールから帰国した直後にも話していたが、足りない部分を突き詰め、攻撃面のストロングを伸ばせれば、本当に森保ジャパン入りも見えてくるはずだ。 その前に187cmの大型右SBは、柏を勝たせられる存在になることが先決。ここからの進化に大きな期待を寄せたい。 (取材・文:元川悦子)
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