加速する高齢化、救急態勢見直し…地方が悲鳴を上げる「医師の偏在」の実態
こうした中、3病院の一つで民間病院の「秩父病院」(同県秩父市)が来年度、夜間・休日の輪番制から撤退することに。「現場にこれ以上の負担を強いることはできない」。同院の花輪峰夫理事長(76)は、苦渋をのぞかせる。
15診療科がある同院は年間約500件の手術を担う。52ある病床の稼働率は9割近いが、常勤医7人中外科医は2人だけ。外科医を志す若手の減少も指摘される中、人材集めは困難を極めてきた。2年半前に引退した花輪理事長は復帰し、今も外科医として働いている。
宿直は開業医らの助けも借りながらなんとか回すが、週1回以上のペースで入ってもらわなければ立ち行かない。「ぎりぎりの状態」(花輪理事長)は続く。
■「実効性ある対策を」
全国の医師数は令和4年時点末で約34万人。40年で約2倍に増加したが、近年は都市圏での就職を希望する者が多く、激務とされる外科や救急科、産婦人科などでは人材不足が深刻化している。収益を上げやすい美容外科に人材が流れ、医師の偏在に拍車をかけているとの指摘もある。
各地では、大学の医学部入試に卒業後一定期間の地方勤務を条件とする「地域枠」を設けるなどして偏在の解消を模索。同枠の定員は昨年度、全国で約1700人に上った。
取り組みは一定の効果をあげるが、地方で専門性を高めることや私生活の両立に難しさを感じる人もおり、人材定着の決定打にはなってはいない。
埼玉県では医師免許取得後、特定地域の公的医療機関などに一定期間勤務すれば、返済が免除される奨学金制度を用意。ただ、人材を欲する秩父病院などは制度の恩恵を受けれていない。公的・民間の区別のない偏在対策を求める声も上がる。
花輪理事長は「行政は各病院が置かれる窮状をしっかりと見て、実効性ある対策を講じてほしい」と話している。(三宅陽子)