列車を“家”として暮らす17歳の少年の様子が話題に…リュック一つで1年半車上で生活「驚くほど快適」
旅の初期は失敗続き
とはいえ、初期は困難の連続だった。夜はほとんど眠れず、日中は睡魔に襲われる日々が続いたと。「想像とは何もかも違いました」とストーリーさんは語る。外国の駅で列車に乗り遅れ、暗闇の中で行き場を失ったこともあった。 だが、長い旅路に鍛えられた。今では綿密にスケジュールを組みつつ、刻々と変化する列車の運行状況に合わせ、即座にプランを組み替える能力が身についたという。 ストーリーさんにとって、列車での生活は夢そのものだ。ビジネス・インサイダー(ドイツ版)の取材に対し、「アルプスに向かおうか、それとも大都市や海に行くのか。毎日決めることができますし、とてもフレキシブルなんです」と目を輝かせる。 2022年の夏、予定していたプログラミング技術の習得コースがキャンセルされたのを契機に、自分らしい生き方ができないかと思案。列車好き・旅好きが高じ、変わったライフスタイルに行きついた。はじめは心配していた両親も、今では出会いと冒険に満ちた毎日をすっかり応援しているという。
乗り放題パスが旅の味方に
特別なライフスタイルを支えているのが、ドイツ最大の鉄道会社である国営・ドイツ鉄道が発行する列車乗り放題の割引パス「バーン・カード」だ。 ストーリーさんは最上位の「バーン・カード 100 ファーストクラス」を、若者割引価格の5888ユーロ(約96万5000円)で購入した。カードは1年間有効だが、すでに1枚目をフルに活用し終え、現在は追加購入した2枚目を使用している。 カードは月額換算で約8万円だ。列車で暮らすストーリーさんの場合、バーン・カードに価格にすべての交通費が含まれるだけでなく、さらに家賃が不要という計算になる。比較として、ドイツの物件検索サイトWohnungsboerseによると、ミュンヘンでは一人暮らし用の30㎡のマンションの平均家賃が13万6000円ほどとなっている。 ストーリーさんは自宅の快適さをあきらめる代わりに、ミュンヘンの人が支払っている家賃の6割ほどの値段で、寝場所とドイツじゅうの旅を手に入れたことになる。プライバシーではきちんとした家に劣るが、1等車両に乗ることができるため座り心地は悪くないという。
シンプルでミニマムな暮らし方
1年半以上も列車での生活を続けたストーリーさんは、すっかり旅慣れたものだ。速乾性のタオルや水分補給のためのウォーターボトルなど、限られたアイテムしか持たない。 衣類もミニマリストのスタイルを貫いており、Tシャツは4枚、ズボンは2枚にまでそぎ落とした。すべてまとめても、リュックサック1つに収まるほどシンプルだ。唯一の貴重品は、仕事に欠かせないノートパソコンくらいのものだ。 長く旅した経験を生かし、将来的には列車関連の仕事に就きたいと話すストーリーさん。乗り放題パスは、まだ4カ月分ほど残っている。今夏ついに列車生活を終え、地上での新生活となるだろうか。
文:青葉やまと