賃貸暮らしの自営業女性、両親は他界、泊りがけで実家を片付ける日々。持ち家やお金はなくても、助け合うコミュニティーがあれば大丈夫
◆何も持たないほうがいい こんな風に実家の処分を先頭に立って進めている早紀さんですが、本当はきょうだいがいます。ただ、県外在住で、体調が思わしくありません。最近ようやく、実家を処分する話が親族間でまとまったので、早紀さんが不動産屋に連絡し、売却話を進めている、というわけです。 実家の墓も、いずれ墓じまいをする必要があると、早紀さんは考えています。本家の墓ですが、末裔は早紀さんだけ。実家の処分が終わったら、しかるべきタイミングで自分が閉じなければと、早紀さんは覚悟しています。とはいえ、本家ゆえ、墓には代々の先祖ら10数人も眠っています。墓じまいは1基200万円ほどかかり、埋葬されている人の数によって金額が高くなる、と噂で聞きました。檀家のお寺には、恐くて、とても値段を聞けません。「まだ、先でいいか、って」 そんな風に、実家や墓の処分にもお金がかかる、という現実に直面するにつけ、早紀さんは、何も持たないほうがいい、との考えを深くしています。不動産を持ったら場所に縛られます。でも、遠方にいる親族に不測の事態が起きて、早紀さんが近くに引っ越さないといけなくなるかもしれません。彼らのことがあるので、「私は、いつでも動けるようにしていたいんです」。 「それに、例えば、私がマンションを買ったとしたら、私に何かがあった時には、その部屋は親族が相続することになります。家なんか買っても、親族の負担になるだけ。残すなら、現金で残さないと。だから、むしろ、モノは何も残さないようにしないと、って思います」 モノが残れば、相続人には、維持管理か処分をする義務が生じます。持ち続けるにせよ売るにせよ、手間と時間がかかります。相続財産が親族に負担をかけるような事態は避けたいのです。自分が何歳まで生きるか分かりませんが、自分の老後を憂えたとしても家を買う気にはなれない、と早紀さんは言います。
◆お金はなくてもなんとかなる でも、老後に体が動かなくなって、働けなくなった時が心配じゃないですか? 早紀さんは「だから、海外の村にあるみたいな、昔ながらのコミュニティーが作れないかなあと思ってるんです」と言います。早紀さんの夢は、そういう「ばあや」コミュニティーを作ること、だそうです。 「共助っていうか、仲間と、みんなでお互いに助け合えばいいじゃないですか。長屋みたいなところでいいので、仲間と隣近所に住みたいな、と思って。それこそスープの冷めない距離に。そして、具合が悪かったら、ご飯を届けに行ったり、病院に付き添ったりして、お互いに助け合うんです。そういうコミュニティーがあったら、大金がなくたって、心配はないでしょう?」 早紀さんは大学生の時、旅行で訪ねた海外の町に魅せられました。アロマセラピストになった後、30代後半で再訪、8年間も暮らしました。現地社会にとけ込み、アロマテラピーの会社設立を計画したほど。そこで知ったのが、「お金はなくてもなんとかなる」という生き方です。周囲には独り暮らしの単身者も多くいました。お金持ちではありませんでしたが、困った時に頼れる友人知人がいました。それが財産でした。お金なんかより、助け合うコミュニティーがあるほうがよほど頼りになる、と実感しました。 「帰国して一番驚いたのが、日本では、あまりにみんな、まずは自分、って、自分のことしか考えてないこと。ひずみを感じました。日本人はみんな老後を心配しすぎ。自分のことは自分だけでどうにかしないと、って考えすぎているように見えます。助け合えるコミュニティーがない。もっと友だちや周囲に頼っていいんですよ、お互い様なんですから。いつからこうなっちゃったんでしょうねえ?」 たぶん、「自己責任」という言葉が喧伝された小泉政権のころからではないかと、モトザワには思われます。公助に頼らず、自分でどうにかしろ、すべきだ、どうにかするしかない、という“自助”の意識が強くなったのは、新自由主義が浸透した今世紀になってからのような気がします。 「自分だけでどうにかしようって考えるから、たくさんお金が必要、ってなる。でも、お互いに支え合うコミュニティーがあれば、お金でなく解決できる手段があるはず。だって昔はそうだったでしょう? だから、私、お金は貯まらないけど、老後のことは心配してません」 例えば、仲間の誰かが車を出してくれるなら、病院に通院するタクシー代が浮くでしょうし、家だって、誰かの空いている実家にみなで間借りする方法もある、と言います。共同生活が苦手なモトザワには向かなさそうですが、確かにそういう「共助」があれば安心かもしれません。自分一人で必死に蓄財し、その虎の子の資産を守ることに汲々としなくても良いかもしれません。
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