【町田リトル】3カテゴリーが同じ場所で練習、保護者がチーム全体の子どもを見る古き良き文化
東京都町田市の外れ。車で片側一車線の山道をしばらく走ると到着したのが町田リトルの練習グラウンド「小野路太陽の広場」。子どもが自転車や徒歩で通うことができないアクセスの悪い場所にあるため、親の送迎が必須になります。聞けば町田リトルには保護者の当番制もあるとのこと。「親の負担ゼロ」を謳うチームも多くなってきた昨今、それでも町田リトルには50人の子どもが在籍しています。親の負担が大きくても子どもが集まるチームの魅力はどこにあるのでしょうか? リトルリーグはグラウンドのサイズがソフトボールと同じだったり、離塁や振り逃げがないなどの学童軟式野球と異なる特徴がいくつかありますが、学年によってカテゴリー分けされていることもその一つです。実際、町田リトルでも1、2年生が「ティーボール」、3、4年生が「マイナー」、5、6年が「メジャー」として、同じ敷地内でカテゴリーに別れて練習が行われていました。 練習を見ていて驚いたことが三つありました。一つは冒頭でも触れましたが、親の負担が大きくても多くの子どもが集まっていること。2つ目は1、2年生たち(ティーボール)が練習に飽きずに集中できていること。3つ目は3、4年生(マイナー)が隊列を組み大きな声でランニングをしていたこと。それぞれの要因を各カテゴリーの監督に聞いてみました。 【小さな子が練習に飽きずに集中】 「ティーボール」が練習をしていのはグラウンド奥の駐車スペース。テニスラケットで打ち上げたフライをキャッチする練習では、初めは正面のボールをキャッチし、次第にフライは左右に振られると「無理だよー!」という声や「さっきより難しいボール、お願いしまーす!」の声が挙がるなど、子ども達は楽しそうにボールを追っていました。その後はゴロ捕球のメニューなどが行われ8時からスタートした練習は12時までで一端終了。食事休憩を挟んで練習はマイナー、メジャーと同様に16時まで行われました。 学童軟式野球の現場では1、2年生は長時間の練習に耐えるだけの体力も集中力もない場合が多く、途中で飽きて土をいじったり、どこかにふらふらと歩き出す子がいたりするのもよくある光景。そのため練習も昼までで終わることが多いのですが、町田リトルの1、2年生たちの子達は練習に飽きている様子が全くないのです。 「細かいことは言わず、ひたすら野球を楽しむこと」 そう話してくれたのは「ティーボール」を預かる河本和哉監督。 「挨拶と礼儀だけはしっかりやるように話していますが、あとは子ども達にとっては野球のスタートになるので『野球の楽しさ』だけ知ってもらえれば良いかなと思っています。だからこのカテゴリーでは野球のプレー、云々はあまり言いません。子ども達の自由にさせています。指導といえば長所を伸ばすこと。欠点を直すのではなく、長所をどんどん伸ばしてあげることで欠点を目立たなくさせてあげようと思ってやっています」 このカテゴリーでは「野球はつまらない」という印象にならないように「野球が楽しい」と思ってもらえることが目標。上のカテゴリーに上がるにつれてちょっとずつ練習は厳しくなっていきますが、辛い練習があっても、それでも「野球は楽しい」と思ってもらえるようなマインドを作って送り出すことが心がけられていました。 【大きな声と規律の高さ】 ウォームアップの時から隊列を組み、大きな声が出てビキビと動いていた「マイナー」の子ども達。ティーボールまでは柔らかいボールを使い、実際に硬式球を使うのは「マイナー」から。当たり前のことですが硬式球は硬く、当たると怪我をする可能性は軟式球よりも高くなります。そのため、自分や仲間の身を守るためにも「危ない!」と大きな声で言える必要がでてきます。そういった咄嗟の声がけも含めて「野球のプレーでは声が大事」ということをマイナーの段階でしっかり教えこまれています。 「そこはもう徹底しています」と話してくれたのは、マイナーの子ども達を預かる山村肇監督。 「『なんで声を出す必要があるのか?』と言うところから伝えるようにしています。試合でファーストランナーが走ったら『走った!』って教えてあげたらアウトが1つ取れるかもしれないよ? そういうところから声を出す重要性を子ども達に伝えてます」 危ないからこそ日頃から「声」を出し、周囲の状況をよく見る。ちょっとの気の緩み、悪ふざけが大けがに繋がることもあるからこそ、このカテゴリーでは自然に意識も規律も高くなっているのかもしれません。 【親の負担が大きくても子どもが集まる】 「やっぱり入口の『ティーボール』のところだと思います。楽しくやっていますし、SNSにも力を入れているのでそういったことを積極的に発信もしています。どういう雰囲気でやっているのか分かった上で体験に来てくれて、実際に体験してみたら本当に楽しかったということではないでしょうか。うちは同じグラウンドで全カテゴリーが練習をやっていますから、上のカテゴリーのこともよく分かりますし、3、4年生たちがキビキビやっているのも分かります。そういうところを実際に見て頂けているのでたくさん入って頂いているのかなと思います」 こう話してくれたのは「メジャー」の中村知也監督。 体験に来た子ども達が楽しいと思えばこのチームで野球をやりたいと思う。3カテゴリーが同じ敷地で練習をしているので、親から見たらどういうプロセスで上のカテゴリーに上がっていくのかが分かりやすく安心できる。そういうことが多くの部員が集まっている要因なのかもしれません。 親の負担についても中村監督はこう話します。 「入団の際には送迎が必須で1年間は事務局担当がある旨は説明していますので、不満の声が挙がることはありません。むしろ父兄の連帯、一体感はかなりある方だと思います。今の時代の流れもあると思いますが『親の負担を少なくする』というのはちょっと違っている気がしています。事務局の仕事は練習時間の連絡であったり、練習で怪我をした子がいたら親御さんに連絡をする、練習試合がある場合は配車のお願い、手配をしたりという仕事。しかも1年を通してグラウンドにこないといけません。最初は負担に思われたり、ちょっと戸惑ったりしますけど、毎回練習を見ていると自分の子だけではなくてチームの子、全員を見るようになります。そうしたら自分の子だけでなくチームの子ども達に愛着が湧くようになるんですよね。そういう良い効果もあって、初めは嫌がるのですが最後は「やって良かった」と言われる方が多いです。事務局を辞めるときにちょっと寂しがって『もうちょっとやりたかった』と言ってくださる方も多くいます。『小野路ロス』なんて言われているそうですが(笑)」 「最近の親は自分の子どものことだけを見ている」という声は多くの現場で指導者からも聞かれます。ですが町田リトルではその逆。この日も3カテゴリーの多くの親が練習を見に来ていましたが、このチームでは多くの保護者がチーム全体の子どもを見ている、チームとチームの子ども達に愛着を持っている。そんな古き良き文化が残っているチームと言えるかもしれません。(取材・写真/永松欣也) *後編では3カテゴリーそれぞれの監督さんにお話を聞いています。
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