原発新設で電気料金が上がる?政府は何と答えたか
「原発の新増設を進めるため、英国のモデルを参考にした制度を検討している事実はない」「次期エネルギー基本計画について、現時点で予断をもってお答えすることは差し控えたい」 国際的な環境NGO「FoEジャパン」が主催する「経済産業省との意見交換会」が2024年11月21日、衆議院の第1議員会館で開かれた。テーマは原発をめぐる政府の新たな支援策だ。意見交換会にはNGO関係者や有識者、官僚のほか、国会議員らが出席。約1時間、議論を交わした。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】 政府は原発の建設費用を電気料金に上乗せし、消費者に転嫁する新たな支援策の導入を検討している。24年度中に改定する「エネルギー基本計画」に、この支援策を示唆する文言が盛り込まれるのではないかとNGOらが懸念している。そんな懸念に対し、経産省の担当者は冒頭の発言の通り、当初は「検討」すら認めなかった。 ◇「エネルギー基本計画に盛り込むべきでない」 政府が導入を検討しているのは、英国の「規制資産ベース(Regulated Asset Base=RAB)モデル」と呼ばれる原発支援の政策だ。これまで毎日新聞経済プレミアで詳しくリポートしてきた。 RABモデルとは「新規の原発建設に必要な資金調達の費用を電力会社が抑制するため、総括原価方式で需要家(消費者)から費用を回収するスキーム」(電力中央研究所)だ。総括原価方式とは、電力会社が発電所の建設や運営に必要なコストを電気料金に上乗せして回収する仕組みだ。 日本では16年の電力小売りの完全自由化で、家庭向けの電気も契約先や料金プランを自由に選べるようになった。コストを料金に転嫁する総括原価方式は激変緩和のため、今も政府が認可する規制料金として存続するが、将来的には廃止の方向だ。新電力と価格競争が進むと、膨大な原発の建設コストを電気料金でこれまで通りには回収できなくなる大手電力にとって、RABモデルは都合がよい。 FoEジャパンらNGOは「原発の建設段階から、建設費や維持費などを電気料金に上乗せして回収するRABモデルは、本来なら電力会社が担うべきコストとリスクを国民に負担させることになる。エネルギー基本計画に盛り込むべきでない」と主張している。 ◇「原発の建設にはいろんな課題ある」 経産省との意見交換会に参加した有識者は、龍谷大政策学部の大島堅一教授(環境経済学)、東北大学大学院環境科学研究科の明日香寿川(あすか・じゅせん)教授(環境政策学)、NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長だ。松久保氏は政府の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会の委員を務めている。 松久保氏らは「原発の建設には巨額の初期投資が必要で、電力会社だけでは新設できない現実が明らかになっている。原発はRABモデルのような支援策がなければ成り立たないのではないか」と質問した。 経産省の担当者は「原発の建設にはいろんな課題がある。民間の投資判断が難しいという認識はある」「支援策というか、脱炭素電源へ投資をしやすくする環境整備が必要だと考えている」などと答えた。 ここで言う脱炭素電源とは再生可能エネルギーではなく、原発のことだ。これまで経産省は「(大手電力は)建設費を含む費用が増加するリスクに対応できない。電力自由化後の収入の不確実性やリスクから資金調達に課題がある。海外の制度も参考に脱炭素電源投資を進める事業環境整備を行う必要がある」と、原子力小委で表明。海外の制度としてRABモデルを紹介している。 ◇「白紙の状態」と言われても RABモデルについてただす有識者に対し、経産省の担当者は「審議中のエネルギー基本計画は年内に素案を提示するが、こういう話(RABモデル)が入るとか、検討しているとかは白紙の状態だ」と述べた。 経産省は世論の反応を恐れてなのか、RABモデルと距離を置こうとした。「海外の諸制度を紹介する中で、政府が(原発の新たな支援策を)検討しているという印象を持たれているかもしれないが、政府として方向性を示したことはない」とも述べた。 そこで大島氏は「でも、審議会で検討しているのは事実ではないか? RABモデルも(脱炭素電源建設の環境整備に)入っているはずだ」と詰め寄った。最終的に経産省の担当者は「そこは否定するつもりはない」と、事実上、導入を検討していることを認めた。 このほか意見交換会では核燃料サイクルや「データセンターや半導体工場の拡大で増加が見込まれる電力需要」について、有識者と経産省の論戦があった。