「迎えにいく」と連絡があったまま音信不通にーー実親に振り回されても子どもを育てる養育里親は究極の“親業”
特別養子縁組を阻んだ、実の父親の気まぐれな一言
汐見さんは、子どもが14歳のとき、特別養子縁組をしようとして頓挫するという経験をしている。 「夫とともに何日も泣き暮らしました。つらかった。でもこれでよかったんだと思います。戸籍がどうであっても、私たち親子の絆は変わらないと再確認できました」 2020年に児童福祉法が改正され、特別養子縁組ができる子の年齢の上限が、原則6歳未満から、原則15歳未満へ引き上げられた。 当時、子どもは14歳。特別養子縁組ができるギリギリの年齢だった。 「私たち夫婦は、名実ともに子どもの親になりたいと思いました。もちろん、子どもの意思が大切なので、児童相談所を通して確認すると、子どもも『本当の子どもになりたい』と言ってくれました。うれしかった」 特別養子縁組は、実親との法的な親子関係を解消し、養親と新たな親子関係を結ぶ制度だ。手続きには実親の同意が必要になる。母親の同意はすぐに取れた。父親は居所不明だった。片親の同意で手続きを進めようとしたところ、児童相談所の調査で父親が見つかった。再婚して家庭を持っていたが、「子どもに会いたい。引き取ってもいい」と言い出した。 それを聞いて子どものテンションが上がった。「私もお父さんに会いたい! 一緒に暮らしたい!」。汐見さんは戸惑った。 「客観的に見れば、父親は子どもを引き取れる環境にはなく、ノリで言ったにすぎないのだと思います。実際、子どもは父親に会いましたが、一緒に住むという話にはならなかったのです」 特別養子縁組は、いったん成立すれば、家庭裁判所が認めない限り、離縁することはできない。汐見さんは改めて子どもに確認した。 「『このまま手続きを進めるとあと戻りはできない。縁組をしてもしなくてもママはあなたが大好きだし、どっちでもいいよ。どうする?』って。そうしたら、『今のままがいい』と答えました。ショックでした。顔も覚えていないような父親でも、血のつながりへの憧れはこんなにも大きいのか、と……。内心の動揺を悟られないよう必死で笑顔をつくって、『オッケー!』って答えました。ピースサインまでつくって」 子どもは15歳になり、特別養子縁組の機会は永遠に失われた。 「今思えば、たとえ言葉だけでも、父親が『引き取ってもいい』と言ってくれてよかったと思うんです。実親に二度捨てられることにならずに済んだわけですから」 現在、養育里親に登録している世帯は全国でおよそ1万2000世帯。それに対して、子どもが委託されている養育里親はおよそ3800世帯だ。登録したものの、何年も音さたのないまま放置されている人も少なくない。社会的養護が必要な子どものニーズは多様で、うまくマッチングできていないという課題がある。また、委託解除は児童相談所の判断になるため、委託解除をめぐるトラブルも全国で起きている。 親としての我を捨て、子どもと向き合う。実親でもなかなかできないことだ。もしかしたら、養育里親は究極の「親業」なのかもしれない。 注:プライバシーに配慮して、一部事実を変えているところがあります。