「どうして休日なのに仕事をしないといけないんだ!」28歳営業マン、上司からの大量「勤務時間外チャット」に”激怒の反撃”
労務管理上の3つの問題
ビジネスチャットは会社が制約を設けない限り、時間や場所を問わず利用可能だが、C村課長のやり方は、労務管理上次の問題点が生じる。 (1)長時間労働の扱いを受ける C村課長はA野さんをはじめとするメンバー全員に対して、勤務時間終了後や休日でも、会社が貸与したスマホの電源を指定時間中はオンにすることを命じ、ほぼ毎日複数回にわたりチャットを送信し即座の返信を強制しているが、その場合スマホをオンしている時間は手待ち時間として扱われる。 手待ち時間とは、業務中でなくても指示があればすぐに業務に就けるように待機している時間のことをいい、労働時間にカウントされる。手待ち時間の具体例としては「電話や来客応対が必要な休憩時間」「タクシーの運転手の客待ち時間」「店番の待機時間」などがあり、すぐに業務に就ける状態であれば私用スマホを扱う、仮眠するなどの自由行動はOKである。チャットでのやり取りも仕事に必要なら業務時間であり、その指示を待っている時間は待機時間と言える。また、休日に個人面談を行った場合は当然労働時間として計算する。 手待ち時間や個人面談等の時間を労働時間とした場合、甲社の36協定の締結内容を超えて時間外労働や休日労働が発生することがあれば労働基準法違反になる。 (2)残業代が発生する C村課長は、手待ち時間及び休日の個人面談にかかる時間について、残業代を支給しないと明言しているが、このケースで勤務時間外に残業代の支払いがない場合(サービス残業)は労働基準法違反である。甲社は営業課メンバー個々の労働時間とその内訳(正規の労働時間+会社内での残業時間+手待ち時間+個人面談に要した時間)を把握した上で残業代を支払うことになる。 なお、甲社が以後残業を認めない場合、C村課長が出した勤務時間外のチャット対応に関する業務命令は原則無効になる。部下がスマホの電源を切っても業務命令違反の対象にはならず、万一の事態に備えて電源をオン状態にしている場合でも、緊急時以外チャット対応の義務はない。 (3)パワハラでいう「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「過大な業務」に該当する可能性がある パワーハラスメント(パワハラ)の定義は「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・肉体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」をいい、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については該当しないとされている。 パワハラには大きく分けて「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「過大な要求」「過小な要求」「人間関係からの切り離し」「個の侵害」の6つの類型があるが、C村課長の場合「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「過大な要求」にあたる恐れがある。 身体的な攻撃とは殴る・けるなど身体に暴力を加えること、精神的な攻撃とは言葉の暴力など精神的に苦痛を与えること、過大な要求とは、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制したり、仕事の妨害をするなどを指す。 C村課長の行為について、勤務終了後や休日にまで、緊急性がないチャットの対応を求めるのはパワハラの定義でいう「業務上必要かつ相当な範囲」を超えており、それができるのは上司として命じているからであり優越的な関係を背景にしている。また、この行為は部下にしてみれば直接身体や精神に暴力を受けたわけではないが、長時間労働による過労で「身体的な攻撃」仕事を離れても気が休まることがないので「精神的な攻撃」、毎日複数回にわたり緊急性がないチャットの即座対応を求めるのは「過大な要求」に該当すると考えられる。 また上記が原因で部下が身体的、精神的な不調に陥った場合、C村課長だけではなく甲社の責任も問われることに留意したい。