野菜と魚がまさかのコラボ! 温室効果ガスを7割削減し、収穫量は7倍に!? 食料生産の常識を変える循環型の新農法「アクアポニックス」とは
「農業DX」との相性も抜群
エコロジカルな面に目が行きがちなアクアポニックスですが、濱田氏は「私たちのコア技術は、データの収集と活用です」と言い切ります。 農薬や殺虫剤を使わずに資源を循環させるアクアポニックスの仕組みは、緻密(ちみつ)な環境管理に支えられています。これらを経験や勘に頼って実行するのは、新規参入者には困難を伴います。そこでアクポニが開発したのが、センサーで収集したハウス内の温度・湿度や水温・水質、野菜や魚の生育状況などのデータを活用する仕組みです。 「現場でどんな作業を行えばいいかというテンプレートは、私たちが開発したアプリにすべて入っています。スマホのアプリを見ながら『今日、水槽にこれくらいの量のエサをやる』といった指示を実行していけば未経験者でも作業できますし、実行した作業もアプリにデータとして記録されます。 農園の現状が可視化されるので、私たちも定期的にリモートでアドバイスできますし、異常が起きた時にAIで原因を分析することも可能になります」 こうしたデータやAIを活用した農業は、「農業DX」、「スマート農業」などと言われて近年、注目されている分野です。濱田氏は、アクアポニックスと「農業DX」の相性の良さに将来性を見いだしています。 「伝統的な農業の分野では一足飛びにこれまでのやり方を変えるのは難しく、なかなかDXが進まない現状がある。アクアポニックスは歴史が浅い分、最初からデータ活用とセットで広げていけるので、そこは大きなビジネスチャンスだと考えています。 将来的には種苗メーカーや小売店とも生産現場のデータを共有することで、流通ルート全体でより効率的なビジネスが可能になるはずです」
普及のカギは大規模化とブランド化
濱田氏が現在注力しているのは、アクアポニックスの大規模化とブランド化という2つの課題です。 まずは、大規模化。これまでは中小規模だった農園の規模を、より大きくしていくことです。2022年には、岐阜県に総面積2800㎡の国内最大のアクアポニックス農園「マナの菜園」がオープンしました。 「世界ではアクアポニックスの市場規模が年率10%で急成長しています。欧米では都市のビルの屋上にアクアポニックス農園が設置されるなど、都市型農業としても注目されています。 日本でも近年は漁獲高の減少傾向が懸念されていますから、安定的な食糧資源の確保という意味でも今後、大規模なアクアポニックス農園が増えていくことは十分考えられます」 もう一つは、ブランド化。アクアポニックスにはまだ明確な基準がありませんが、有機栽培の農作物のような認証制度をつくり、商品に表示することでより付加価値を高めることができます。濱田氏はこうした動きを本格化するため、国内の業界関係者を集めてパートナーシップを強化し、業界全体でアクアポニックスを盛り上げていく準備をしています。 取材の際も「ふじさわアクポニビレッジ」は見学の企業関係者でにぎわっており、注目度の高さがうかがえました。海外からの見学者も多いといい、濱田氏は今後の海外展開も視野に入れています。 「アクアポニックスは少ない水資源で食料を生産できるので、アジアや中東、アフリカの国々でも注目されています。データの収集や活用を組み合わせた手法は私たちが独自に開発したもので、アメリカでもまだ本格的には導入されていなかった。フロム・ジャパンのアクアポニックスで、海外に逆進出もしていきたいと考えています」
朝日新聞社