野菜と魚がまさかのコラボ! 温室効果ガスを7割削減し、収穫量は7倍に!? 食料生産の常識を変える循環型の新農法「アクアポニックス」とは
単身渡米し、2年間のアクアポニックス武者修行
日本ではまだまだなじみのないアクアポニックスに濱田氏が出会ったのは、サラリーマン時代のある偶然がきっかけでした。 「元々釣り好きで、ピラルクという大きな淡水魚が釣りたくて調べていたら、ブラジルにピラルクを養殖している日本人がいた。その人に電話したら、『養殖の水を畑にまくとおいしい野菜がとれる』とボソっとおっしゃったんですね。気になって調べてみたら、海外にはアクアポニックスという農法があると知りました」 濱田氏は早速、ホームセンターでそろえた材料で栽培キットを自作。自宅のベランダでニシキゴイを飼って、小さなアクアポニックスを始めました。 「実際やってみると、殺虫剤や液体の化学肥料をまいたら魚が死んでしまうと直感的に分かりますから、使えません。人に教わらなくても自然と生態系全体を意識するようになって、行動が変わる。これは面白いと思いました」 ここから週末の農業学校に1年間通って有機農業の基礎を身に着けた濱田氏は、2014年にアクポニを起業。始めは家庭向けの観賞用キットの販売から始めましたが、次第に「もっと大きく、商業規模でできないか」という問い合わせも増えてきました。 ノウハウの不足を感じた濱田氏は、アクアポニックスの普及が先行しているアメリカに単身渡ります。 「会社をリモートで運営しながら、テネシー州を拠点に2年間くらいかけて20カ所ほどアクアポニックスの農園を回りました。『お金はいらないから働かせてください』と言って、現場で上司や同僚に『ここはどうなってるの?』と、どんどん質問した。大学の講座も3つほど受講しました」 こうして身に付けた知識を元に、2020年に藤沢市内に1件目の試験農園を開設。アクアポニックス農園のデザインや施工をパッケージ化して販売する事業を本格的に始め、これまでに全国40カ所以上で導入されています。
企業や地域に循環のループを広げる
濱田氏によると、これまでにアクアポニックスを導入した顧客で多いのは、環境への意識が高いものづくり系の企業が、経営多角化の一環として始める事例だといいます。 「ものづくりの会社は、工場から出る熱やガス、あるいは土地や人材など、未利用の資源を持っていることが多い。アクアポニックスにそれらを投入することで、事業全体として効率的に資源が循環する仕組みをつくることができます。 収穫した野菜や魚を近くのレストランに提供したり、農園自体を観光施設や教育施設にしたりすることで、地域への波及効果も期待できる。野菜と魚の循環だけでなく、企業や地域で第2、第3の循環を回していけるのです」 こうした理論もさることながら、濱田氏が強調するのは「アクアポニックスは、とにかく楽しい」ということ。野菜や魚がすくすくと成長する姿から生物循環のダイナミクスを感じ取ることができ、農園で働く人々から「やりがいを感じる」という声を聞くことも多いといいます。数値に現れないもう一つのメリットです。