墓地はにぎわいを呼ぶ

鹿児島料理業組合の業者たちは、雇用している酌婦をことごとく解雇したうえで、「市内各所に散在する同業者を南林寺町の一角に纏め一廓を為す花街」を建設する方針を立てる。この計画が同業者から100名をこえる賛同をえて、組合代表者は内々に市当局に南林寺町の借地と花街の建設を打診した。 すると、「市としては南方の発展策の上から大いに歓迎するとの意向」が示されたという。実際、鹿児島警察署長は「自分としては現在各所に散在する飲食店が跡を絶つて南林寺町に一廓を形作ることは風紀衛生其他の取締り上から云ても又市の発展上から見ても非常に好いことゝ思つてゐる」との談話を発表した(『鹿児島新聞』大正14年5月20日)。 もとの仲間である「西南券」は新花街の建設を了承した一方、近傍の遊廓《沖の村》の貸座敷業者からは猛烈な反発をうけたが、むしろ問題となったのは再開発事業そのものがすでに進捗していたため、花街建設にあてがう土地がほとんど残されていなかったことである。とうてい100軒をこえる料理屋の敷地を用意することなどかなわず、規模を20軒程度に縮小することで、業者側と市との交渉は結着した。 大正14(1925)年末には「開ける新市街　中検料理屋も一廓を形作る」と報じられたごとく、墓地を再開発した一角に料理屋街を建設し、〈中券〉と称する券番が組織されたことで、新しい花街が誕生する。 再び、勝目清の回想に耳をかたむけておこう。 「あとで聞いた話だが、「墓地跡は賑かなもので、商売が繁盛する」と一般に当時いわれていたそうだ。そのいい伝えはそのまま的中し、やがて南座という劇場ができる、中券と称する料理〔屋〕街ができる、芸者も百数十人いるようになり、かっての墓地とうって変って賑かな町になった。」 まさに墓地はにぎわいを呼んだのだった。 (『花街』より) 全国の「花街」の記憶を辿る旅はこちらから！ 【東京】「「海岸芸妓」に謎のM旅館……東京のウォーターフロント《大森》《森ケ崎》を賑わわせた花街の記憶」 【鳥取】「“駅前遊郭”《衆楽園》　風紀取締りの厳重な鳥取の城下町に生まれ、消えた、遊蕩の巷」 【富山】「明治維新で「殿様御殿」は“不夜城”に様変わり！　富山藩主別邸《千歳御殿》の辿った運命とは」