綿矢りさが地元・京都を舞台に三姉妹の揺れる思いを描く『手のひらの京』 #京都が舞台の物語【書評】
『インストール』『蹴りたい背中』で若き女性作家として脚光を浴びて以降、多くの作品を世に送り出してきた綿矢りさ氏。彼女が自身の故郷でもある京都を舞台に三姉妹の物語を書いたのが『手のひらの京』(新潮社)だ。
生まれも育ちも、そして両親も京都育ちの奥沢家三姉妹。図書館に勤める真面目な長女・綾香。男にモテまくって生きてきた強気の次女・羽依。異性にも恋愛にも興味のない三女・凛。あまり似ていない3人だが仲は良い。奥沢家では母が主婦としての定年=もう食事を作らないと宣言しており、交代で夕食当番をしながら暮らしている。 本作がまず描くのは姉妹それぞれの人生。三姉妹の視点が入れ替わりながら話が進んでいく。綾香は30代に入り結婚願望を抱くようになるものの彼氏も出会いもなし。子どもの姿が目に留まると、焦りから顔を背けるようになってしまう。一方、羽依は昔から彼氏に困ったことはないが、女性とは揉めがち。入ったばかりの会社でもくだらない理由から先輩女子社員に目をつけられる。凛は恋愛自体に興味なし。と全員タイプがバラバラ。だからこそ多様な焦りや悩みが描かれていて、共感できる、または「こういう人って近くにいるな」と思いながら読み進めることができる。 現在放送中のドラマ『若草物語』もしかり、近年シスターフッドと呼べる女性同士の絆を描く作品は多い。女性の生き方の多様化にともない、置かれる立場や悩みも多様化している昨今。シスターフッドを扱う作品が人気なのは、ひとつの物語の中で様々な境遇の女性の視点が読めるのが面白いし、彼女たちがお互いをリスペクトし合う様子には心が温まるものがあるからではないかと思う。自分とは違う立場の登場人物の一言が急に心に刺さったりするのも、私がシスターフッドを描く作品が好きな理由だ。 また、本作では祇園祭、大文字焼き、鴨川の川床など京都らしいモチーフで四季も描かれている。私も父が京都に住んでいた時期があり、京都には縁深く、当時を懐かしく思いながら読み進めた。そこで思ったのは、『手のひらの京』で描かれる京都は住んでいる人からの視点、つまり生活者の京都であるということだ。綾香は祇園祭を眺めながら、「ひとりでいる自分を誰にも見られませんように」と焦るし、凛は毎年家族でベランダから眺める大文字焼きに他県出身の友人を招待し、誰もいないような山道を通って大文字焼きに近づいていく。夏は蒸し暑く、冬は寒い盆地・京都らしい気候も文章の端々から感じられる。その生活感漂うよそ行きでない京都が、三姉妹の生活をよりリアルに感じさせるのだ。 京都に、そしてなぜか地元に帰りたくなる一冊。年末年始の予定を立てる前に読んでみてはどうだろうか。 文=原智香