選ぶならオープンか、あるいはクーペか? 2台のベントレー、コンチネンタルGTCとGTに乗ってモータージャーナリストの渡辺慎太郎が選んだのはどっち?
ジープとメルセデスのオープンカーとクーペ、それぞれ1台ずつ過去に所有し、自らをクーペ派という渡辺慎太郎が、ベントレーのコンチネンタルGTCとGTに乗り、それが本当かどうかあらためて悩んでみた。 【写真22枚】モータージャーナリストの渡辺慎太郎さんが選んだのはオープンか、それともクーペか? ベントレーのホイールキャップは回転しないは本当か? 写真で確認する オープンにしないオープンカー これまでの自分の所有車遍歴を見返してみたら、オープンとクーペがそれぞれ1台ずつあった。オープンは、社会人になって初めて購入したジープ・ラングラーのソフトトップ。ジープ・ブランドにもラングラーにも特段の思い入れがあったワケではない。その頃はなぜか無性にオープンカーに乗りたくて、当時の輸入車の中でもっとも安かったオープンがラングラーだったからだ。クーペは、フリーランスになって最初に買ったメルセデス・ベンツの124シリーズの300CE-24。124はいつか所有してみたかった1台で、セダンのW124でもよかったのだけれど、知り合いのショップでたまたま程度のいいC124と巡り会ったのがきっかけだった。 よく言われるように、オープンの魅力は肌で直接風を感じられるところにある。同様の体験ができる2輪は、夏は暑く冬は寒く雨には濡れるし、何時でも快適とは言えない。その点オープンカーは、ルーフを閉めるとクーペにもなるという、まさしく“二刀流”である。でも実際に所有してみてわかったのは、思っていたほどオープンにはしないということだった。特にラングラーの場合は、オープンにするのに10分近くかかるという絶望的面倒もあったからなおさらだった。C124にはサンルーフが付いていたので、おかげでオープンの疑似体験はできた。これならクーペでいいじゃんと、その時に自分なりの結論に帰結した。 でも読者のみなさんもそうであるように、クルマの好みというのは年齢や環境の変化などにより移りゆくものでもある。ベントレー・コンチネンタルGTとGTCを乗り比べるなんて贅沢な機会を今回いただいたので、果たしていまでも自分はクーペのほうを好むのか、あらためて向き合ってみることにした。 まずはオープンありき 世の中にはオープン単体として存在しているモデルも少なくないけれど、4人乗りのオープンはそのクーペ・モデルが併売される場合が多い。コンチネンタルGTとGTCもまさしくそういう関係にある。ひと昔前までは、オープン・モデルはまさしくクーペの屋根を剥ぎ取って代わりに開閉式のルーフを装着する手法が一般的だった。ところが最近では、先にオープンを開発し、後から(あるいは同時に)クーペを作っているらしい。開口部が広くボディ剛性の面で不利なオープンのほうでボディ骨格をしっかり構築しておけば、ルーフが一体化しているクーペのボディには自動的に必要以上のボディ剛性がもたらされるという算段である。確かにそのほうが、屋根を取ってユルユルになってしまったオープンのボディに追加でいくつもの補強材を入れるよりもずっと効率的だ。 おそらくそういう理由により、最近のオープンで、極端にボディ剛性不足を感じるモデルに出くわすことは以前に比べてめったになくなった。もちろんコンチネンタルGTCも例外ではない。 まるでティー・コージー マクラーレンを除けば、英国車のオープンは一般的にソフトトップがほとんどである。防犯やボディ剛性などを考慮すればハードトップのメリットは少なくないのだけれど、それでもソフトトップにこだわるのは、やっぱり英国車の歴史や伝統や慣習を踏まえた独自の流儀が背景にあるからだろう。 ソフトトップのオープンには、スニーカーに似たカジュアルな雰囲気が漂う。コンチネンタルGTCの場合は、スニーカーといっても“ハイブランドの”という註釈を付けたほうがいいかもしれない。ベントレーは高級車だという擦り込みを排除したとしても、GTCの佇まいからはえも言われぬ上質感がダダ漏れしているからだ。筋肉質で硬質感もあるボディの上にフワッと被っているソフトトップが、ポットを保温するためのティー・コージーにも見えたりするのは、やっぱり英国繋がりかと思ったりもする。 ファブリック製のルーフは4層構造になっていて、その作りはとてもしっかりしている。バタついたり膨らんだりなんて今は昔。クーペとほぼ同等の静粛性や密閉性を備えているから、快適すぎてかえってオープンにする機会が減ってしまうのではないかと、いらぬ心配さえよぎる。 そして結局のところ、GTCを運転している最中にずっと頭の中を支配していたのは、いつどこでオープンにして、そのままどこを走るのかということだった。自意識過剰のそしりを免れないのは重々承知しているけれど、実際に信号待ちで屋根を開け放つと、歩行者からの視線が集中する事態となる。オープンで走行している時でも、コンチネンタルGTCは圧倒的存在感をまき散らしているので、視線の放列は避けられない。なるべく人のいないところでコソコソとオープンにしている己の所業に「何やってんだろ」と呆れた。 それでもちょっと慣れてくれば、やっぱりオープン・ドライブは格別だと得心する。特に2シーターよりも4シーターのオープンのほうが個人的には好みである。洋上のヨットの甲板にいるような、360度全方位にひらけた開放感がたまらない。こうなると速度は上げずにあえてゆっくり走りたくなる。風が頬を「叩く」ではなく、風が頬を「撫でる」くらいを楽しみたいからだ。 ほどよい輝き 試乗車は“アズール”と呼ばれる仕様で、スポーティよりもエレガントが優先されているという。これが、ゆったりと流すような走りにはピッタリだった。V8のエンジン音は前へ出すぎず、エアサスがもたらす乗り心地は悠々たるもので、こんな乗り味に身を委ねてしばらくドライブしていたら、自分の本来の身分を危うく見失いそうになった。 ふと室内に視線を落とすと、陽光に照らされてクロームのトリムがキラキラしていた。でもそれはほどよい輝きの範疇に留まっていて、決してうるさくない。そういえば、クロームの使い方にも英国流のセンスがあると思う。どこかの国のクルマのように、絶対にこれみよがしに主張し過ぎたりはしない。あくまでも装飾品の一部としてのちょっと控え目くらいの役割に徹している。 コンチネンタルGT/GTCに限らず、ベントレーのインテリアの景色には最近ことさら驚かされる。機械式スイッチの数が、時代に逆行するかのごとき多さだからだ。それでもビジーに感じないのは、ダッシュボード全体から細部に至るまで、シンメトリーの様式をきちんと守ってレイアウトされているからだろう。流行のタッチ式液晶パネルは見栄えはいいかもしれない。しかし人間工学的使い勝手の観点からすれば、機械式スイッチはいまでも最適解のひとつだと思う。 ずっとスポーティ クーペのコンチネンタルGTは“S”という仕様で、V8が発する550ps/770NmのパワースペックはGTCアズールと同値ながらも、その乗り味はこちらのほうがずっとスポーティだ。GTCの雰囲気にすっかり呑み込まれてしまい、ベントレーにはスポーツカー・メーカーとしての一面もあることをうっかり忘れてしまうところだった。クーペに乗り換えてエンジン・スタートボタンを押した直後には、GTCとは明らかに異なる勇ましい始動音が耳に響き、スポーツカー・メーカーとしての出自の歴史がまさしく呼び起こされた。 GTCを“柔”とするならGT Sは“剛”と表現できるかもしれない。ガッチリしたボディのおかげで、ドライバーの入力に対する加減速や操舵応答はリニアで正確。静々と、でも猛烈な加速感はかなり独特で、ちょっと他では味わえないベントレー・ワールドへあっという間に引き込まれてしまう。GTCでは感じられなかった適度な緊張感を伴うドライビングが、それはそれでどこか心地いい。運転そのものを楽しむことに集中できる演出に、ベントレーは長けているのだなあとあらためて感心させられた。自分ならこのクルマにはひとりで乗りたいとも思ってしまった。 オープンか、あるいはクーペかという設問の答えは、当然のことながら車種によっても変わってくる。コンチネンタルGTとGTCであればGTCを選びたい。ただし、オープンにしたときの小っ恥ずかしさを克服できたら、という条件付きだけど。 ■ベントレー・コンチネンタルGT S 駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4880×1965×1405mm ホイールベース 2850mm 車両重量 2200kg エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCターボ 排気量 3996cc 最高出力 550ps/5750-6000rpm 最大トルク 770Nm/2000-4500rpm トランスミッション 8段デュアルクラッチ式自動MT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+エア サスペンション(後) マルチリンク+エア ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク タイヤ(前) 275/35ZR22 タイヤ(前) 315/30ZR22 車両本体価格 3392万4000円 ■コンチネンタルGTCアズール 駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4880×1965×1400mm ホイールベース 2850mm 車両重量 2370kg エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCターボ 排気量 3996cc 最高出力 550ps/5750-6000rpm 最大トルク 770Nm/2000-4500rpm トランスミッション 8段デュアルクラッチ式自動MT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+エア サスペンション(後) マルチリンク+エア ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク タイヤ(前) 275/35ZR22 タイヤ(前) 315/30ZR22 車両本体価格 3946万8000円 文=渡辺慎太郎 写真=郡 大二郎 (ENGINE2024年6月号)
ENGINE編集部
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