「誰かの顔ではなく、最適化された自分がいい」 ”アプリの自分に近づきたい”若者たちの美容医療 現場の医師が語る、変わるニーズと抱える問題
美容医療界にだって、真面目に診療している医師がいる。そういう側からしたら、問題のあるクリニックに患者さんを奪われることは非常に悔しいし、美容医療界の発展にもつながらない。 ――たとえばどんなケースが気になりますか。 美容医療の場合、入り口はまぶたの内側に特殊な細い糸を留めることで、二重のラインを作る「埋没法」を希望する人が大半です。なので、問題があるとされているクリニックでは、埋没法が安く手軽にできることを前面に出して宣伝します。
そのため、美容医療初心者ほど引っかかってしまいやすい。 消費生活センターにも多数の相談が寄せられていますが、たとえば、インターネット広告で「手術当日に化粧ができる二重まぶた形成術」を見つけて来院したら、カウンセリングルームで長時間拘束され、「あなたには、この施術が必要」と巧妙なセールストークを聞かされたあげく、広告表示とは異なる50万円の施術の契約を迫られ、その日のうちに手術させられる――といったケースです。
――厚生労働省の美容医療の適切な実施に関する検討会でも、問題になっています。本来は医師の診察を受けて、自分に合った治療法やリスク、ダウンタイム(施術後の腫れなどが元に戻るまでの時間)、費用について説明を受け、合意を得てから治療を受けるべきですが、そうではないところもあるようです。 ■安心して受けられる環境作りが課題 ――施術を受ける側に対して、どんなアドバイスがありますか? 情報リテラシーを高め、自分を守る努力が必要だと思います。
少なくともテレビなどのコマーシャルだけで判断せず、受診前にはクリニックのホームページなどをチェックして、医師の経歴が詳細に記載されているか、うたっている価格がほかのクリニックと比べて不自然に安価ではないかをチェックしてほしいと思います。 埋没法でいえば、当院では10万円前後が適正価格だと考えています。経営者の立場からみても、美容診療は設備や人件費などコストがかかり、カウンセリングや術後のアフターケアを含めると、それより安すぎる価格は現実的ではなくて、その価格でできる何か理由があると思わざるをえません。
業界全体がより改善し、利用者が安心して施術を受けられる美容医療の環境作りが喫緊の課題です。 (2回目の記事:美容医療界で増える「直美」問題はどこにあるのか) 高須クリニック名古屋院院長 高須幹弥医師 1999年藤田医科大学医学部卒業後、同大学麻酔救急科、藤田医科大学大学院形成外科、群馬県立がんセンター頭頚部外科、ブラジルIvo Pitanguy Instituteでの研修を経て、2007年より現職。医学博士。日本形成外科学会専門医、麻酔科標榜医、日本美容外科学会専門医(JSAS)、日本美容外科学会正会員(JSAPS)。
石川 美香子 :医療ライター