まだまだ、絶対にやれる。もっともっとプレーを見てみたい。そんな青山敏弘がこれからどんな歴史を広島で紡ぐのか。楽しみに待ちたい【番記者コラム】
これぞ、青山敏弘。そう言えるホーム最終戦
リーグ戦の本拠地最終戦となった北海道コンサドーレ札幌戦(○5-1)を終えた4日後、本当の意味で最後のホームゲームとなったアジア・チャンピオンズリーグ2の東方(香港)戦に、青山敏弘のすべてが凝縮されていた。 【画像】サポーターが創り出す圧巻の光景で選手を後押し!Jリーグコレオグラフィー特集! 11分に柏好文へ、68分に満田誠へ。ふたりのアタッカーに出した決定的なスルーパスは東方を震え上がらせ、サポーターを興奮させた。16分にマルコス・ジュニオールへ、18分に柏へ、28分には越道草太へ。彼らに送った局面を変えるロングパスは、かつて佐藤寿人に何度も供給してゴールを陥れた必殺の一撃。アメリカンフットボールでクオーターバックが出す鮮やかなパスを彷彿とさせる美しいロングパスを出せる選手が、果たしてどれだけいるか。日本サッカー史に残る名パサーと言われる中村俊輔や遠藤保仁とはまったく違うクオリティを持つ、歴史的なロングパサーである。 そして36分の得点シーン。志知孝明のミドルシュートを相手GKが弾き、こぼれ球に反応したゴールには、志知も「まるでストライカーのよう」と表現。解説の森﨑浩司(広島アンバサダー)が「寿人を彷彿とさせる」と語った得点感覚は、若き日の青山が何度も表現し、チームを救ってきた彼の特異能力だ。 これぞ、青山敏弘。そう言い切れる素晴らしいパフォーマンスを、自身のホームラストマッチで存分に表現してチームを4-1の勝利に導くなんて、誰にもできはしない。 かつて父(中島浩司)が青山とともにプレーし、少年の頃から青山に憧れ続けた中島洋太朗は、東方戦で彼と同じピッチに立った経験をこう表現する。 「まず一つひとつのプレーが本当素晴らしくて、リズムを変えるプレーを一緒にできてとても楽しくて。今までこんなに早く時間が過ぎていく試合は初めてだって思うぐらい、アッという間だったなと思うくらい、楽しかった。逆に深く考えることはなく、すごく自然に、楽しくプレーできたなと思います」 まだまだ、絶対にやれる。もっともっとプレーを見てみたい。 「今日の彼のプレーの一つひとつ、その瞬間、瞬間っていうのは、言葉にできないものがありました。彼は素晴らしい選手だったし、今でも素晴らしい選手であることをしっかりフィールド上で証明してくれた。彼のすべてが集約されたような良いパフォーマンスだったと思っています」 東方戦の試合後、ミヒャエル・スキッベ監督はしみじみと語った。その言葉に同意するが、一方で青山は今季限りの引退をすでに表明しており、その決意は変わらない。 彼の師であるペトロヴィッチ監督は、こう語ったことがある。 「クオリティは落ちない。経験を積むごとに、サッカーは上手くなる。だが、走れなくなるから、選手は引退せざるを得ないんだ」 まさしく、青山のクオリティはあの頃のままだ。いや、スキッベ監督の指導によって「前に出る守備」の術を覚え、できることは増えた。 しかし、残念ながら走れなくなったことも事実である。プロ2年目の左膝前十字靱帯断裂をはじめとして、複数回に及ぶ左膝半月板の手術、腰痛、そして2019年アジアカップでの右膝軟骨の負傷も含め、「怪我のデパート」のような歴史がなければ、あと数年間はトップレベルでプレーできたかもしれない。 だが、そんな不運も含めて彼は「尊敬するサンフレッチェ広島というクラブで引退できることを、幸せに思っています。21年という長い現役生活すべてで(サンフレッチェ広島で)プレーさせていただいて、すべてを捧げさせていただいた大きな誇りを胸に、引退できることを嬉しく思います」と語った。