【チャンピオンズC回顧】レモンポップを連覇に導いた“人馬の絆” 種牡馬としても可能性は無限大
田中博康厩舎の流儀
レモンポップをはじめて生で目にしたのは2021年12月12日、阪神の夙川特別だった。阪神JFの取材で検量室前にいて、レース後のレモンポップを間近でみた。このとき2着に敗れはしたものの、3歳とは思えぬお尻の大きさにスケール感を覚えた。 【チャンピオンズカップ2024 推奨馬】勝率66.7%に該当で信頼度◎! 国内は連対率100%で盤石(SPAIA) レモンポップが右回りに出走したのは夙川特別が最後。この徹底したレース選択と、詰めて使わない姿勢が田中博康厩舎の流儀。それを広めたのもレモンポップであり、田中博康厩舎の土台を築いた一頭だ。 東京ダート1400mにこだわり、勝ち星を重ね、2歳時以来のマイル出走は4歳秋の武蔵野S。若い頃には決してイヤな経験をさせない。慣れたコースに繰り返し出走させることで、馬の気持ちをポジティブなまま出世させた。 もちろん、あちこちの競馬場や距離を試し、経験値を高めるのも逞しくなる道筋だが、いずれにしても若駒は前向きさを失わずに育ってほしい。少しずつ出走条件に変化を加え、着実に成績を重ねていった。 5歳フェブラリーSは、その積み重ねの先にある大きなタイトルでもある。夙川特別で感じた才能が一気に開花。個人的にもっとも完成の域にあることを感じたのは、昨年のチャンピオンズC。絶妙なさじ加減で距離をごまかすテクニックを手にし、距離延長でも結果を出した。
ラップ比較にみるライバルたちのプレッシャー
今年も国内では無敗を継続。変わらない力を発揮してきたが、引退レースは確かにこれが最後であることを納得できる辛勝でもあった。若駒から蓄え続けた力と素質があったからこそ、最後は勝てた。そんなレースだ。 ラスト200mは12.7。昨年も12.6と似たようなラップだが、昨年は12.6-12.1から12.6。今年は12.2-12.0-12.7であり、マークされる立場ゆえに先に仕掛けていかざるを得なかった。 最後の失速は昨年とはまるで違う。王座防衛のために必要な勝負を仕掛けたため、ウィルソンテソーロとの着差は1馬身1/4からハナまで詰められた。 だが、それでも負けない。最後の最後、鬼気迫る脚で猛追するウィルソンテソーロを感じるや否や、レモンポップはもう1回、力を振り絞った。もっとも苦しいときに湧き出る力、これが底力であり、王者だけが纏う誇りだと知った。 理屈ではわかるが、相手は競走馬であり、そこで頑張れと命じたところで、理解できるとは思えない。だが、それができる。坂井瑠星騎手の叱咤に応えた場面に人馬の絆を感じた。 昨年は大外枠、今年は白帽子と同じコースであっても状況は異なる。にもかかわらず、昨年の1000m通過が1:00.9、今年は1:00.8と測ったようなペース配分を施す坂井瑠星騎手は末恐ろしい。レモンポップとの出会いで大きく成長を遂げた。 来年は世界を股にかけ、そしてJRAリーディングを目指さないといけない存在だ。C.ルメール騎手や川田将雅騎手が充実期のうちにリーディングを奪う。坂井瑠星騎手や岩田望来騎手ら、若手成長株にはそれを達成してほしい。JRAの未来はそうしてつながる。 改めて、昨年と今年のラップ構成を比較してみる。 <2023年> 12.5-11.0-12.9-12.4-12.1-12.4-12.6-12.1-12.6=1:50.6 <2024年> 12.6-11.0-12.4-12.2-12.6-12.4-12.2-12.0-12.7=1:50.1 チャンピオンズCは1000m通過が1分1秒台より速いと差し馬の舞台になる。どちらも1:00.9、1:00.8だから、レモンポップにとって決して楽な流れではない。 「王者を楽に行かせるなんて」という声もあるかもしれないが、今年は昨年ペースを落とした3ハロン目、4ハロン目でペースを落とせなかった。 ミトノオーが1~2コーナーで絡み、先行集団はバラけることなく大集団を形成して、みんなレモンポップについていく。それぞれが自分のペースを守り、息を入れれば、馬群は向正面で縦長になるはずだ。そんなペースのなか、つくられた大集団に王者への挑戦姿勢が透けてくる。 受けて立つレモンポップは、1000m標識の手前で少しだけ息を入れた。これが残り800mからのスパートにつながり、最後の最後にみせた踏ん張りに影響した。わずかな違いで結果は変わる。そんな繊細な競馬を完成させ、連覇を達成した人馬は尊い。 レモンポップはこれで種牡馬となる。キングマンボ系の新たな系統としての可能性は無限だ。サンデーサイレンスもなければ、キングカメハメハも介していない。なにより、日本競馬になくてはならないスピードは魅力しかない。