ドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダさんと考える「LGBTQ +と旅」の現在地
チェックインで「嘘」か「カミングアウト」の二択を迫られる
――旅先でのサービスで、配慮のなさや違和感を覚えるのは、具体的にはどんな場面ですか? ドリアンさん:例えば、男性同士のカップルでキングベッドやダブルベッドの部屋を予約すると、宿によってはフロントでわざわざ「あら、お仕事ですか?」とたずねられることがあります。聞いている方は軽いコミュニケーションのつもりかもしれないけれど、「そうなんです」と答えれば嘘をつくことになるし、「違います」と答えれば望まぬ場面でカミングアウトするはめになる。私は普段からオープンにしているので、「カップルよ!」って返すけど、大っぴらに答えられるのはおそらく少数派ですよね。 そういう些細なストレスの積み重ねで、せっかくの旅が楽しくなくなってしまうのはとても残念。ただある意味、慣れて麻痺しているので、またか…という感じで、アタシ個人としてはいちいち傷つかなくなってはいます。でも、本来なら慣れる必要のないことだと思います。もちろん、余計なことを聞かずにスマートな対応をしてくれるホテルや旅館もあって、そういうところの株は上がりますね。 ――改めて意識してみると、予約の時点で男/女の入力が必要だったり、異性愛同士のカップルやファミリーを前提としたプランやサービスが多いことに気づかされます。 ドリアンさん:特に温泉宿や旅館では、くっきりと男女別に二分された“おもてなし”に居心地の悪さを感じるLGBTQ +当事者も多いのではないでしょうか。例えば、部屋の備え付けの浴衣やはんてんが、男性用はネイビー、女性はピンクで分けられている。最近はニュートラルな宿も増えていて、先にフロントで要望を聞いてくれたり、どちらも選べるようになっているところもありますが。 ――Booking.comの調査では、LGBTQ+のコミュニティのなかでも、トランスジェンダー*やノンバイナリー*の当事者は危険に晒されたり不快に感じたりするケースが多かったそうです。ドリアンさんは今年の2月にトランスジェンダー男性のパートナーとの婚姻を発表されましたが、パートナーと旅する中で改めて気づいたことはありますか? ドリアンさん:これまでシスジェンダー*の自分が意識してこなかった、さまざまなハードルに直面することもありますね。海外旅行ですと、パートナーはパスポートに記載されている性別や名前と見た目の性に違いがある場合、入国審査でひっかかってしまいます。国内旅行であっても不都合なことは多種多様にあります。例えば、大浴場を使うことが難しいので家族風呂や貸切風呂がある宿を選ぶ必要があるのですが、家族風呂がひとつあるかどうかが宿選びの理由になるといった当事者の事情は、宿側の皆さんは意外にご存じないのかもしれません。 *トランスジェンダー:自認する性と出生時に割り当てられた性が一致しない人 *ノンバイナリー:自らの性自認や性表現に、男女二元論の枠組みを当てはめない考え方 *シスジェンダー:自認する性と出生時に割り当てられた性が一致する人 ――ちなみに、日本のLGBTQ+旅行者の 48%(世界では62%)は、自身が LGBTQ+であることが、旅行中の服装やメイクの選択に影響を与えたことがあると答えているそうです。旅先の雰囲気に溶け込むために、より慎重になる方が多いようですね。 ドリアンさん:あくまでも旅先のカルチャーや習慣へのリスペクトという場合もありますが、閉鎖的な地域やそれこそ罰せられるような地域では、普段はSサイズのタイトなTシャツを着てる方がXLサイズのシャツを着るような場面もあるのかなと想像しました。ノンバイナリーの方や、普段は女性ものを着ているけれど旅先ではそれがしづらいというようなことかもしれませんね。