「ユリ・ゲラー」テレビ初出演から50年…矢追純一氏が語った「特番の舞台裏」と「超能力ブーム」
世界はもっと複雑で不確かなもの
もともと矢追には、絶対的な世界などどこにもない、という思いがあるという。それは彼の生い立ちと関係がある。生まれは満州で、父親は日本政府の高級官僚だった。満州では白亜の御殿に住み、何不自由のない少年時代を送っていた。ところが終戦を境に世界が180度反転する。昨日までの使用人に家を追い出され、家族は路頭に迷う。 守ってくれる国家も法律もなく、母親の着物や煙草を売るため幼い妹たちと寒空に立つような日々を過ごす。2年後に引き揚げてきたが、その少年時代の体験は彼の価値観に大きな影響を与えた。 「僕らのいる世界というのは、みなが考えているほど単純なものではなくて、もっと複雑で、不確かなものなんです。ないと思っていることがありうる世界なんです。でも大部分の人は、安住の地に住みたいがために、自分の中で世界観をつくり、それに反するものは認めようとしない。 だから不思議なものが現れると、既存の理屈でわかるものにすり替えようとする。番組をつくるのに、それほど殊勝な考えはなかったんですが、たまには空を見て、宇宙的視野で物事を見つめることが必要じゃないかと思ったのです」 そうした考えを持つ矢追が、ユリ・ゲラーに出会った。イスラエルの出身で、まさに既存の理屈では説明しきれないパフォーマンスを行うユリ・ゲラー。2人の間に何か通じ合うものがあり、あの番組が誕生したのである。 *** ユリ・ゲラー番組の放送後、日本には「スプーン曲げ少年」たちが現れた。第2回【スプーン曲げ少年をめぐるマスコミの暴走 ユリ・ゲラー「超能力ブーム」はなぜバッシングに変わったのか】では、そのうちの1人がマスコミから糾弾され、ブームが急速にしぼんでいった時期の裏側を明かす。 上條昌史(かみじょうまさし) ノンフィクション・ライター。1961年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退。編集プロダクションを経てフリーに。事件、政治、ビジネスなど幅広い分野で執筆活動を行う。共著に『殺人者はそこにいる』など。 デイリー新潮編集部
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