「ユリ・ゲラー」テレビ初出演から50年…矢追純一氏が語った「特番の舞台裏」と「超能力ブーム」
6分以上フォーク曲げを映し続けた
最初は、女性が別室で描いた図形をテレパシーで当てるという実験、次に鍵の入った缶を透視で当てるという実験を行なった。そこまでが“小手調べ”で、番組開始から約30分後、いよいよフォーク曲げが披露されることになる。 ユリ・ゲラーは局側が用意したフォークやナイフの中から1本のフォークを取り上げ、柄の付け根の部分を親指と人差し指でつまむようにして持ち、静かに擦り始めた。 スタジオ内の視線は、彼の指先に注がれる。カメラもフォークを擦る指先をとらえ続ける。ユリ・ゲラーは、ときどき左手と右手を交代しながら擦り続けた。途中でゲストの栗田ひろみにフォークの柄の部分を持たせ、指先に力を入れていないことを確認させたりする。 すぐ横に坐っている三木鮎郎が「テレビを見ている皆さんも、曲がれ曲がれと念じてください、そうすればきっと曲がると(ユリ・ゲラーは)言っています」と通訳する。 やがてカメラはフォークの先が、柄のところからズレたように曲がるのを映し出した。 「あ、くにゃくにゃになった。彼は撫でているだけですよ」と三木が驚いたように言う。フォークがアップで映し出されると、柄の部分に2箇所亀裂が入っているのがわかる。ユリ・ゲラーは三木にフォークの先を持たせ、左手の親指で亀裂が入った部分を擦り続ける。 すると突然、フォークの柄がポトリとテーブルの上に落ちた。会場から小さなどよめきが起きる。「完全に折れましたね」と三木が言い、次の瞬間、会場は拍手に包まれる……。 この間、6分30秒ほど。現在のせわしいテンポのテレビを見慣れている者からすると、間延びするくらいじっくりとカメラはフォーク曲げを映し続けていた。
これは冗談じゃない、やばいね
収録番組の放映が終わると、カメラは生のスタジオに切り替わる。約束の8時35分になる前から、スタジオに待機した女性オペレーターたちの電話に、視聴者からの報告がひっきりなしに届きはじめていた。 「スプーンが2本曲がりました」「壊れた時計が4つ動きだしました」「秒針が曲がってしまったんです」「電池が入っていない時計が動きだした」「傘の柄が折れてしまったんです」「さっきまであった右肘の痛みが消えてしまった」「壊れたテレビが映りはじめた」等々。 司会の三木鮎郎は、そうした視聴者からの電話を受けつつ、自らも壊れた腕時計を触っていたが、突然表情を変えた。 「動いたよ、動いたよ、おい。やばいね……これは驚きました……。動いてますよ、たしかに。だってたしかに止まってましたよ……これは冗談じゃない、やばいね」 番組中に視聴者からかかってきた電話は、オペレーターが受け取った数だけで332本。電話が殺到したために、電話局から苦情が来て、番組の途中で電話の受け付けを中止したほどだった。演出がほとんどないため、スタジオ内の混乱ぶりがよく伝わってくる。 科学者の大谷は、「どういう力が働いたか、今の段階では言えない。まだわかりませんが、研究する価値のあることだとは思います」とコメント。 やがて番組は、困惑する三木鮎郎のこんな言葉で、やや唐突に終了する。 「わたしも司会をやりながら、半信半疑でいたんですが、(ユリ・ゲラーは)やりますね……。いまだに電話が鳴っております。目の当たりに見た事実は、本当です……」