なぜ「人材派遣の会社」パソナが、「淡路島」で事業を始めたのか…? 背後で起きている「社会の大きな変化」
「人が活躍する場」の多義性
そもそも、この対談においてはある前提が置かれている。それは、女性の再就職と地方創生が、「人が活躍する場を作る」ことにより解決可能な社会課題だということだ。 なるほど、確かにパソナは人材派遣というスキームを産み出し、プラットフォーム化することに成功した企業であり、多くの人々を流動・再配置することが可能な能力を有している。このことを前提とするとき、確かにこの「女性の再就職」と「地方創生」という2つの課題は、パソナの力によって一定程度解決可能なものとして認識されるかもしれない。 しかし、ここで考慮されている「場」という言葉が意味するところは、「女性の再就職」と「地方の創生」とでは、決定的に異なる。 どういうことか。たとえば「とぉない男」において強調されていたのは、マッチングの重要性であった。つまり、片方には就労したいがその機会を失っている(往々にして高学歴の)主婦層がおり、もう片方には一時的な雇用調整が可能な労働力を求める企業が存在する。 パソナが産み出したイノベーションとは、この2つを接合させる「場」を作り出すことであり、パソナに払われている労賃とはこのマッチングコストに他ならない。換言すれば、パソナの役目は、働き手を求める企業(公共団体含む)と働きたい人(多くの場合雇用市場において周縁化された人々)をつなぐことであった。 他方、地方創生事業の場合は、ずいぶん事情が異なる。もちろん、淡路島という土地に、(たとえ時限付きであろうとも)人を連れてくることができるのは、パソナが上述した「人をマッチングさせる場」を有しているからであり、その意味でパソナの力能に変化があるわけではない。 ただしここで重要なのは、淡路島においてパソナはマッチングだけでなく、働く「場」そのものを作り出しているということだ。つまり、ここでパソナはマッチングのプラットフォーマーとしてだけでなく、人々から労働力の供給を受け、人を雇用する事業会社としての性質も有している。リスクを負って事業を起こし、人を雇うというやり方で「場」を作り出しているのだ。 事実、パソナが地方創生事業において背負っているリスクは相当のものだ。たとえばパソナのIR資料を見ると、淡路島事業が所属する「地方創生ソリューション」部門はここ数年、売り上げが40億~60億円程度なのにもかかわらず、毎年20億円代後半の営業赤字を計上している(パソナグループ 2024)。これは、パソナの屋台骨である人材派遣・BPO事業(=ビジネスの外部委託の事業)における単年度営業利益が、約120億円弱であることを考えると、上場企業としてかなりの冒険だろう。 これはパソナの地方創生事業が、働き先そのものを作らざるをえないことと関連している。つまり、マッチングのみに注力できない以上、就労先となる観光・宿泊施設の整備のためのコストは嵩まざるをえない。たとえばパソナは優良子会社である「ベネフィット・ワン」の株式売却益(1120億円)から、140億円を淡路市岩屋地区のホテル開発のために拠出することを発表している(パソナグループ 2024)。