旭化成が腎疾患薬で「1700億円買収」 住友化学や三菱ケミカルグループが「頭痛の種」の医薬品事業で大勝負
三菱ケミカルグループも悩ましい状況にある。100%子会社の田辺三菱製薬は2024年度の最終利益が5割近い減益になる見通しだ。国内医療用医薬品の薬価改定、新製品の上市に向けた販管費や研究開発費の増加の影響が大きい。 三菱ケミカルグループの筑本学社長は「ファーマの(研究開発)資金をどう稼ぐか頭が痛い」と語る。業界紙の取材では「製薬の売却も選択肢」と示唆している。5月の決算会見では製薬の切り離しについて「決まったものはない」としながら「すべて検討中」と答えている。
■「腎臓・免疫・移植」のニッチを攻める 他社が苦戦を強いられている背景には、医薬品事業の性質の変化がある。新薬の主流がバイオ医薬品へとシフトする中、化学と医薬のシナジーは少なくなっている。 一方、新薬を生み出す確率は低く、臨床試験を含む研究開発費は高騰の一途。運よくヒット薬剤を持てたとして、住友ファーマのように特許切れを迎えれば業績は急降下する。 そうした中、旭化成はニッチ領域に絞り込むことで勝機を見出す。具体的には「腎臓・免疫・移植」の領域だ。
2020年には腎臓移植手術患者向け免疫抑制剤を持つアメリカのベロキシス社を、デンマークの親会社ごと1432億円で買収した。さらにカリディタス社を加えることで、腎移植から腎疾患へとカバー領域が広がる。 SBI証券シニアアナリストの澤砥正美氏は、「医薬品大手が参入しにくい専門治療領域でポジションを確立する。(薬剤を)持っていく病院も同じなので効率がいい。合理的な戦略だ」と評価する。 実は旭化成の積極投資は医薬品だけではない。今年4月には約1800億円を投じてカナダにリチウムイオン電池用湿式セパレーター工場を建設する計画を発表した。稼働は2027年の予定。生産会社にはホンダや日本政策投資銀行からの出資を受け入れるほか、カナダ政府などの補助金も活用する。
湿式セパレーター事業では、昨年10月にアメリカ(ノースカロライナ)、日本(宮崎)、韓国(平澤)に約400億円を投じて製造能力を拡大することを決めたばかり。足元で400億円強ある湿式セパレーターの売上高を2031年時点で1600億円とし、営業利益率は20%以上を見込む。 旭化成がにらむのは、電気自動車(EV)など電動車向けの需要の増加。足元でEV販売は世界的に減速しているものの、中長期ではEVシフトが進むと考える。とくにインフレ抑制法(IRA)によって電池材料の北米生産を求められるアメリカ市場にチャンスを見出す。