【海外トピックス】バイデン政権がCO2排出規制を緩和しEVシフトをスローダウン。欧州にも波及か?
EV強制でなく、テクノロジーニュートラルを強調
トランプ前大統領や共和党のタカ派議員など反対勢力が、「EVシフトは米国経済を殺す」「EVの強制」と攻撃しているのを意識してか、今回のルールは「多様な技術を想定しテクノロジーニュートラル」で、メーカーも顧客も「EV、PHEV、ハイブリッドからハイテクエンジン車まで幅広い選択肢がある」ことを強調しています。 当初案に強く反対していた自動車メーカーや主要サプライヤーで構成する米国自動車イノベーション協会(Alliance for Automotive Innovation)も今回の修正案を歓迎し、「依然としてストレッチ目標だが市場とサプライチェーンに時間的猶予を与えた」というコメントがEPAのプレスリリースにも掲載されています。また、バイデン大統領を11月の選挙で支持することを表明したUAWも、「エンジン車の生産に携わる労働者への配慮を示した」と今回の修正を評価しています。
ディーラー協会は懐疑的、共和党議員は環境保護派への迎合と批判
依然として反対しているのは、全米自動車販売店協会(NADA)や共和党議員、石油関連団体などで、NADAは、市場のEV受容ペースを考えると今回のシナリオでも「大いに懐疑的」としたほか、ネブラスカ州の共和党上院議員デブラ・フィッシャーは、今回の修正は「EVのコストや信頼性の問題など『クリーン技術』の汚れた真実を浮き彫りにした。(中略)E15(※3)などの普及を図る方が現実的な環境政策」というコメントを出しました。しかし、E15でCO2排出の大幅な削減ができるとは思えませんから、ここまで来ると温暖化対策やグリーン政策が党派間の政争の具と化している現実を見せられている気がします。※3:エタノールを15%混合したガソリン燃料。 昨年のある調査によると、共和党員の70%は次のクルマにEVを検討しないと言い、逆に民主党員の56%は次のクルマにEVを検討すると回答したそうです。これを見ても、バイデン政権の法律は「EVの強制」「エンジン車禁止」という反対派の喧伝が広く流布しているようです。 緩和されたとはいえ、2032年にライトビークルのGHG排出量を85g/マイル(53g/km)に削減は決して容易ではありません。2027年のEV比率の想定は26%(乗用車35%、トラック23%)であり、あと4年でそこまで達するのは難しいという感触を販売ディーラーが持っても不思議ではありません。また、EUの2030年のCO2排出規制値(49g/km)と比べても、米国の排ガス試験走行サイクルの方がEUのサイクル(WLTP)より負荷が高いことを考えると、自動車メーカーにとってもかなり厳しい数値です。 今後は、米国道路交通安全局(NHTSA)が、昨年7月に発表した2032年に58マイル/ガロン(=24.5km/L)の企業平均燃費(CAFE)案を変更するかどうか。また、カリフォルニア州のクリーンカー法(ACC II)が定めるゼロエミッション(ZEV)規制(※4)(ニューヨーク州など16州が採用)との法律上の整合がどうなるかなどが懸案として浮上する可能性があります。※4:2027年に43%、2030年に68%、2035年に100%のZEVを義務付けている。