窯場が全焼した小石原焼の窯元、園児たちの作品で再出発…久々の陶芸教室「笑顔に元気もらいながら」
福岡県東峰村にある小石原焼窯元のマルワ窯で今夏、家屋と窯場が全焼した。復旧のめどが立たない中、3代目の太田富隆さん(55)はまず、火事で焼失した保育園児たちの作品を作り直す陶芸教室から再開した。「子どもたちの笑顔に元気をもらいながら再出発します」と前を向いている。(井上裕介) 【写真】全焼した窯場で当時の状況を語る太田さん
11月7日、太田さんは長男の義八さん(28)と次男の政五郎さん(22)とともに福岡市東区の御幸保育園を訪問し、5か月ぶりに陶芸教室を開いた。
電動ろくろを3台並べた室内に年長の園児約60人が順番に訪れ、コップと茶わん、皿の中から一つを選んで挑戦。水でぬらした手をおそるおそる土に当てる園児に、義八さんらが「手をチョウチョにして優しく持ってね」などと手を添えてアドバイスした。皿を作った園児(6)は「手がこちょばかった。これで唐揚げをいっぱい食べたい」と喜んだ。別の園児(6)も「ぬるぬるしとった。コップをお兄ちゃんにあげる」と話していた。
窯元の火災は8月17日深夜に発生。太田さんの父が一人暮らしをする木造2階建て住宅から出火し、隣接する窯場に延焼した。けが人はなく、同じ敷地内にあった作業場に被害はなかった。原因は漏電とみられるという。
電気窯やガス窯、作品の出来を大きく左右する釉薬がすべて燃えてしまった。それまでに陶芸教室を開いて作った県内3保育園の園児たちの作品約200点も窯場にあったため、焼失した。
火災から約4か月がたったが、焼け跡の片付けも手つかずの状態が続いており、復旧へ道のりは険しい。現在は、作業場で成形した作品を約1キロ離れた建物に運び、これまで使っていなかったガス窯で少しずつ焼いている。
釉薬を作るのに必要な木灰や藁灰など独自の分量を記載したメモも焼失したため、以前のような色合いを表現するのも難しくなった。太田さんは「頭に残っている記憶で配合して、一つ一つ焼いてみないと出来上がりが分からず、試行錯誤するしかない」と語る。