【プロ1年目物語】史上最高の遊撃守備、新人最多56盗塁…無名のドラフト5位小坂誠の歴史的快進撃!
6月8日の西武戦ではプロ初のサヨナラ安打。小坂は営業面でも、オフからの伊良部秀輝のメジャー移籍問題を巡るゴタゴタで、イメージダウンしたチームの救世主となる。オールスターファン投票で近藤監督は「小坂がファン投票1位になるように、(ロッテ)本社に協力してもらうよ」と全面バックアップを要望。最終的に監督推薦での出場となったが、新人としてはチーム42年ぶりの抜擢に、本人も「(球宴期間)はマリンで練習するつもりだったんですが……」とやや戸惑いぎみ。前半戦終了時、打率.276、30盗塁。松井稼頭央(西武)や村松有人(ダイエー)と盗塁王争いを繰り広げる韋駄天は、夢の球宴第1戦で代走として出場するとすかさず初球に二盗を決めてみせた。 「ショートにボールが飛んだときは安心して見ていられるな」と近藤監督もその守備力には絶大な信頼を寄せ、5月以降失速して最下位に低迷するチームにおいて、次世代のリーダーを担える実力者の小坂を開幕からフル出場させた。体力面が不安視されたが、試合前の午前中からウエート・トレーニングを欠かさず、夏場には自腹で数十万円もするトスマシンを購入して黙々と練習に励んだ。
イチローに次ぐ“第二の球界の宝”
8月15日の近鉄戦で37個目の盗塁を決め、長嶋茂雄(巨人)の新人時代の盗塁数に早くも並ぶ。8月22日の近鉄戦では、この年開業した大阪ドームの右翼スタンドへプロ初アーチ。97試合目、425打席目の初本塁打だった。実は小坂は社会人時代に通算35発を記録している小力の持ち主でもあった。8月30日の日本ハム戦では2盗塁を決め、パ・リーグ新人記録を更新する41盗塁に到達。さらには9月6日の西武戦、盗塁王を争うライバル松井稼頭央の前で45盗塁目。1952年に佐藤孝夫(国鉄)がマークした新人盗塁プロ野球記録に45年ぶりに並んだ。実は佐藤と小坂は同じ宮城県出身で、佐藤が所属していた仙台鉄道管理局は、小坂がプレーしていたJR東日本東北の前身企業だった。ヤクルトスカウトに転身した佐藤が同郷の後輩をリストアップするもチーム事情から指名を断念。ドラフト前にロッテGMの広岡達朗に小坂の情報を伝えていたという縁もあった。 地元・宮城県亘理郡山元町では後援会発足の動きが高まり、JR京葉線海浜幕張駅前「マリーンズボールパーク」にて「小坂選手の盗塁数当てクイズ」が実施されるほどのお祭り騒ぎ。9月11日のオリックス戦、4回に二盗を決め、これがシーズン46個目の盗塁。ついにドラフト5位ルーキーが新人最多盗塁記録を更新してみせた。 「先輩の佐藤さんの記録を抜いて、うれしい。僕はお客さんが喜んでくれるように努力したい」 そんな小坂の控え目な喜びの声を伝える週ベ1997年10月6日号では、「小坂誠の『シンデレラ・ロード』まっしぐら」という特集記事が組まれた。近藤監督の「小坂はイチローに次ぐ“第二の球界の宝”。大事に育てなくてはならない」という最大級の賛辞と、前記録保持者の佐藤からは「僕らの時代はキャッチャーの肩が弱かった。今の記録の方がずっと価値がある。後輩に記録が抜かれたのだから、うれしいよ」と祝福の言葉が贈られている。最終的に小坂は盗塁王こそ逃すも、この年限りで引退する西村徳文の持つ球団記録55を更新する56盗塁まで記録を伸ばし、令和の今も新人最多記録として破られていない。