国家を束ねる「正統性」を失った指導者が増えたのはなぜか、21世紀はますます混乱を深める
そうした中、第2次世界大戦後のアラブ世界のエジプトに、ナセル大統領(1918~1970年)がクーデタによって出現する。そしてアラブ世界の統一を画策することで、混乱を極め、西欧への劣等感に苛まれたアラブ人に、誇りと信頼を与えたというのだ。 ナセル本人は独裁者で残酷な人物であったとしても、ナセルという名前でアラブ世界が一時的にも統一できたのは、この正統性にあったというのだ。 レーニンや毛沢東、ケネディやオバマなど、ある種カリスマ的な力をもつ政治家は、民族を1つにする希望というものを体現しているともいえる。
しかし、ナセルはアラブ世界を統合することができず、結局第2のナセルとなるサダトやイラクのフセインなど現れては消えていった。 イスラム原理主義というイデオロギーが出現しても、結局再び宗教間の対立と分裂によって、混乱が生まれ、今もその混乱の最中にあるという。 ■正統性を失った世界の指導者たち これはアラブ世界の話だが、今世界が第4の段階、すなわち混乱期にあるとすれば、その混乱を止めるべき正統性をもった人物あるいは国が登場するしかないことになる。
それが誰であり、どこの国であるのかはわからないが、ここ数年世界を混乱に陥れている戦争を考えても、現存の政治家が正統性をもって人々を束ねることができていないことも事実である。 ロシアのプーチン、中国の習近平、イスラエルのネタニヤフ、アメリカのトランプ、ウクライナのゼレンスキーなど、いずれも正当な手続きで選ばれた政治家だとしても、信頼される正統性をもった政治家であるとはいえないからである。 アメリカは戦後、政治力、経済力、軍事力で正統な世界の指導者であったが、その衰えとともに正統な指導者たりえなくなった。
今後世界は西欧の衰退とともに、混迷の世界に進むだろう。それは歴史の転機となる価値規範の転換の時代となるかもしれない。今後われわれはそれに立ち向かい、サバイブしていくしかないのだ。
的場 昭弘 :神奈川大学 名誉教授